月から太陽へ5
- mycolorpart0
- 5月24日
- 読了時間: 13分
あらすじ
望は太田と話すことで自分の夢がすでに
叶っていたことを知る。
太田は最後まで望を信じることを決めた
矢先に望の卒業発表を知る
◯ラジオブース(夜)
望「こんばんは。神楽R月野望です」
芸人「おかえり望ちゃん。早速だけど望ち
ゃんからリスナーの皆に大切なお知らせ
です」
望「はい。私、月野望は……」
◯東京駅近くの道路・海野の車(夜)
望の声「神楽Rを……卒業します」
太田「えっ……?」

◯ラジオブース(夜)
望「卒業日は7月19日。ライブ最終日の
東京公演が最後の活動になります」
芸人「残念ですね。何で卒業を決めたの
?」
望「アイドルとしてやりたい夢が叶ったか
らですかね」
芸人「その夢って何かな?」
望「うーん。内緒です」
望、人差し指を口元に持っていき「
しー」とジャスチャー。
芸人「えー。気になるー。卒業後はどうす
るの?」
望「まだ決めてないんですけど、ちょっと
違う世界を勉強したいなって。私本当に
世間知らずで。この間名古屋に帰った時
もいつもマネージャーさんが買ってくれ
るから新幹線のチケットの買い方も知ら
なくて。あ、知ってます? トナカイっ
て実在するんですよ」
芸人「それは皆知ってるって!」
望「えーそうなんですか? とにかくこれ
からは一ファンとして神楽Rを応援しな
がら、じっくり世間のことを知りたいん
です」
◯東京駅近くの道路・海野の車(夜)
太田「そんな……卒業? しかも卒業コン
サートもないなんて。そんなの……」
海野「卒業コンサート? 野球選手の引退
セレモニーみたいなやつ?」
太田「ああ。確かに皆ができるわけじゃな
いけど……こんな終わり方……あんまり
だろ」
太田、膝を叩く。
海野「……どうする? 探すのやめるか
?」
太田「いや……あと1ヶ月。絶対こんな形
で卒業なんかさせない」
海野「よし! そうこなくっちゃ」
海野、車を走らせる。
◯マンション・太田の部屋
太田、パソコンの前に座る。
Xの画面。「月野望応援アカウン
ト」フォロワー1万。
◯稽古スタジオ
望、メンバーとダンスを練習する。
◯東京駅近くの道路
太田、写真を持って聞き込みをす
る。
◯ライブ会場
T『会場リハーサル』
望、ステージに立つ。ノートに「上
手メイン客席向き29.5」と書き
込む。
◯東京駅近くの道路・海野の車
T『7月19日 ライブ当日』
車内で寝る二人。
海野、目を覚まし、太田を叩き起こ
す。
太田「ん……朝か?」
海野「いや……」
時計を確認すると17時。
太田「やばっ! 流石に寝過ごしすぎだ
ろ」
海野「そりゃ連日徹夜してればこうなるだ
ろ……」
太田「ライブ開始は18時。もう時間が…
…」
海野「やれることはやった。お前のおかげ
で擁護派も増えたろ?」
太田「だけど……まだ決定的な証拠が。お
い、おい、あれ!」
窓の外を指さすと赤い車が通る。
海野、慌てて車を走らせる。
◯商業施設の駐車場
赤い車が駐車場に停まり。派手な服
を着た20代後半の男が出てきてタ
バコを出す。太田、車から降り近づ
くと男が気づきタバコをしまう。
GO「ん? 何か要?」
太田「その車、XのGOさん……ですよね
?」
GO「ちっ。今忙しいから」
太田「月野望の投稿……あれ、捏造だろ
?」
GO、車に戻ろうとし、止まる。
太田「月野望に何か恨みでも?」
GO「はあ? 恨み? ふっ、そんなもん
ねえよ。俺は拡散するよう頼まれただけ」
GO、笑いながら答える。
太田「何でそんなこと……」
GO「そんなの面白いからに決まってんだ
ろ。ああ、あと小遣い稼ぎ?」
太田「……面白い?」
GO「ああ面白いね。嘘か本当か分からな
い情報によ、世間が踊らされてんのを見
るのがたまらなくな」
GO、狂気的な笑み。

太田「クズが……」
GO「ああクズだよ。けどな、俺の投稿で
騒いでる奴らの方がよっぽどタチ悪い
ぜ」
GO、タバコを取り出し吸い始め
る。
GO「ストレス発散のために平気で他人を
叩く。しかもそれが正義だと思い込んで
る奴もいんだから笑えるよな。あ、そう
だ、俺はそいつらのストレス発散を手助
けしてんだからよ。立派な社会貢献だよ
な?」
太田「お前……それ本気で言ってんのか
?」
GO「あ? お前だってあんだろ? 誰か
を叩いて欲求を満たそうとしたこと」
× × ×
フラッシュ。太田、Xでと投稿ボタ
ンを押しかけた指
× × ×
太田「……ああ。けど俺は踏みとどまれ
た。その先に生身の人間がいるってこ
とも、自分を否定されるのがどれだけ
辛いかも知っているから」
GO「あっそう。もういい? 俺忙しい
の」
太田「待てよ!」
GO「しつけぇなあ。たかがアイドル一人
に何マジになってんだよキメェな。他に
やることあんだろ。ほら、政治やら戦争
やら。どうせならそっちを正す方に時間
使え。な?」
GO、携帯で太田を撮り始める。
太田「たかがアイドル? いいか? 世の
中の人間はな、もっと身近で小さい世界
で悩んでんだよ。行きたくもない所で、
会いたくもない人と会って、見たくもな
い現実の中で必死に生きてんだよ」
GO、の携帯画面越しに太田が映
る。

太田「明日が怖くて寝ることもできない。
そんな現実から目を逸らしたい時。眩
しいくらいの希望を見せてくれるのが
アイドルなんだよ」
GO「(笑いながら)何をいうかと思えば
、ただの現実逃避じゃねーか」
太田「現実逃避だっていいんだよ。本当に
辛い人はな、逃げる場所も自分で見つけ
られないんだから」
GO「はいはい。ご高説どうも。とりあえ
ずさ、これ拡散されたくなかったら早く
どっか消えてくれる?」
GO、撮影を止めて携帯を見せる。
海野「お前こそ大丈夫? 最初っから最後
までその顔バッチリ映ってるけど?」
海野、影からスマホを構え現れる。
GO「はあ⁉︎」
海野「何か言いたいことあるならどうぞ」
GO「え、いや、その……」
GO、顔を手で隠し沈黙。
太田「顔を晒されたら何も言えない。そん
な卑怯者にな、人生賭けて戦ってる奴ら
を邪魔する権利も資格もねえんだよ!」
◯ライブ会場
会場外に集まるファン達。

◯同・ステージ裏
衣装を着て円陣を組む神楽Rメンバ
ー。
永遠「ライブ最終日。今日は新曲初披露も
あるし気合い入れていくよ。望、最後の
ライブ何かある?」
望、自分を指差す。永遠、頷く。
望「えっと。7年間ありがとうございまし
た。今日で私は卒業だけど、いつも通り
最高のライブを皆で作りましょう」
永遠「それだけ? 泣いてもいいのに」
望「メイク、落ちちゃうんで」
笑顔のメンバー。
笑顔のない美雪。
◯(回想)・神楽R事務所・会議室
T『1ヶ月前』
向かい合い座る茜、美雪。
茜「で相談って?」
美雪「あの新人マネージャーなんですけ
ど」
茜「村雲君?」
美雪「あの人、私の握手会に来たことある
んです。私2回以上来てる人は忘れない
から」
茜「えっ村雲君が?」
美雪「はっきり言って怪しいです。握手会
の時も……。捏造記事だってあの人が来
てからすぐだったし」
茜「考え過ぎじゃない……?」
美雪「でも……内部の人じゃないと望のア
イコンなんて。あの子プロ意識高いし連
絡先なんて簡単に交換しないと思う」
茜「確かに……。ちょっと探ってみるわ」
◯(戻って)・ライブ会場・控室
美雪、控室に入ろうとするが中に電
話をする村雲の姿が見えてやめる。
村雲「月野望の元データをよこせだ? ん
なこと今更できるかよ。金も払ったろ」
村雲、電話を切る。美雪、部屋に入
る。
村雲「ったく、今更なんだよ」
美雪「ねえ今の……どういうこと?」
村雲「え、あ、今井さん……これは」
美雪「あなた……私の握手会来てたわよね
?」
村雲、嬉しそうな顔をする。

村雲「ゆっきー、覚えててくれたんだね」
村雲、満面の笑みを浮かべる。
美雪「……あなたね。望の捏造写真ばら撒
いたの」
村雲「あいつが悪いんだよ。ゆっきーの方
が光ちゃんと仲良かったのに、いきなり
あいつが選抜になってさ。でも安心し
て。僕のお陰であいつもういなくなるか
らさ」
美雪「ふざけないで!」
村雲、驚く。
美雪「そんなことされてもね。私達は1ミ
リだって嬉しくない。ただただ気持ち悪
いだけ。私はね……望と対等なライバル
でいたかった。それだけなのに。元デー
タ……今すぐ渡しなさい!」
村雲、崩れ落ちる。
◯ライブ会場・関係者席
朔、ライブの関係者席に着席。
美華、叶人、浩司、関係者席に着席
会場の音声「まもなくライブが開演しま
す。速やかにご着席いただき、携帯の電
源はお切りください」
朔、携帯の電源を切る。
◯海野の車
太田、助手席に海野、運転席に座
る。
海野「会場まで送ってやるよ」
太田「訂正の投稿は入れさせた。けど決定
的な証拠が……」
スマホに通知が入り、XのDMを開
く。
太田「え? これ」
◯ライブ会場・ステージ裏
美雪、携帯をバックにしまい、メン
バーが集合している所へ走る。
美雪、隣の望と目があう。
美雪「……何?」
望「さっきの話……聞こえちゃった」
美雪「えっ!」
周りのメンバーが美雪を見る。美雪
、口を抑えて周りに頭を下げる。
美雪「ごめん……最後のライブ前に」
望「ううん。嬉しかった。それに、これく
らいじゃもう動揺しない。私達プロでし
ょ?」
◯同・ステージ
照明が一瞬消え、オープニング曲と
共に再び輝き出す。望、ステージに
メンバー達と上がっていく。

望M「卒業コンサートが開かれるようなト
ップアイドルにはなれなかった」
望、メンバー曲に合わせて歌って踊
る。
望M「いつも通りのこのライブが私にとっ
ての卒業コンサート」
望、歌いながら観客席に向かって手
を振る。
望M「私のタオル全然ないなあ。あ、そう
いえばあの人来てるかな?」
曲中に永遠や美雪と目を合わせる。
望M「沢山じゃなくていい。私に向けられ
た拍手や声援が一つでもあるなら。これ
から先の未来も私はきっと頑張れる」
◯海野の車の車内(夜)
太田「捏造前の元データ、投稿完了!」
海野「おい! やったな! でも一体誰が
?」
DMのアカウント名meltsno
w。
太田「頼む。会場の皆にも届いてくれ」
海野「心配しなくても明日には誤解は解け
てるって」
太田「明日じゃダメなんだ、明日じゃ。ア
イドル月野望は……今日までなんだよ」
海野「でもライブって確か始まったら」
太田「分かってる。とにかく急ごう。俺1
人でも真実を知ってる奴が現地で応援し
て最後を見届けてあげなきゃ」
太田、携帯で見るライブ中継に望。
◯ライブ会場・ステージ(夜)
ステージにメンバーが集まる。
永遠「続いてが最後の曲。来月リリースさ
れる新曲をメンバー全員でパフォーマン
スします」
盛り上がる会場。
永遠「ここで皆さんにお願いです。この新
曲披露の間だけ携帯での撮影を許可し
ます」
どよめく会場。
永遠「撮影した動画のSNSへの投稿もO
Kです。皆さんで新曲をじゃんじゃん宣
伝ししちゃってください!」
歓声と共に観客が携帯の電源を入れ
る。
新曲が始まる。
◯同・外観(夜)
太田、会場に到着し車から出て走
る。
太田「匠、色々ありがとう!」
海野「おう。いいから早く行け」
◯同・ステージ(夜)
新曲最後の振りを
決めるメンバー。曲が終わり、会場
歓声に包まれる。
永遠「本日はありがとございました!」
観客にお辞儀をするメンバー。
望、手を振りステージ裏へ。
◯同・関係者席(夜)
朔、ステージへ拍手を送る。
朔「そうだ。さっきの動画投稿しよっと」
Xの画面に応援アカウントの投稿。
朔「えっ……?」
◯同・一般観客席(夜)
二人組の高校生男子、携帯を見る。
高校生1「おい、これみろ!」
高校生2「マジかよ、俺……疑ってごめ
ん」
会場全体が騒めきだす。

◯同・関係者席
美華「なに? なんかあったの?」
叶人「母さんこれこれ」
叶人、美華と浩司に携帯を見せる。
◯同・控室
メンバー、メイク直しや水分補給。
永遠「皆お疲れー。あとはアンコール。最
後まで全力で楽しむよ!」
望、1人座り太田に貰った写真を見
る。
会場の騒めきが控室まで届く。
永遠「えっ、何? 何? こんなの今ま
で」
美雪「望! これ!」
美雪、望に携帯を見せる。メンバー
も集まる。
画面には望応援アカウントの投稿。
リポストが5万、7万、10万と増
える。
望「これって……」
会場の歓声「のーぞーみ! のーぞーみ
!」
会場から巻き起こる望コールが控室
に響きわたる。
望、顔を手で覆う。
後輩1「凄い! こんな歓声初めて」
後輩2「流石の望さんも、これには泣いち
ゃいますね」
永遠「望。良かったね……」
望を抱きしめ次に両肩に手を乗せ
る。

永遠「さ。ステージへ行っといで」
望「え……?」
永遠「ファンの期待に応えるのがアイド
ル。でしょ? 責任は私が取るから」
永遠、望の涙を拭う。
望「でも私……」
美雪「良いからとっとと行きなさいって」
望、メンバーを見渡し、手に持った
ままの写真の文字「心に耳を傾けて、
きっと答えはそこにあるから」を見
る。
望、頷き立ち上がりステージに向か
う通路へと走っていく。
笑顔で見つめるメンバー。
◯同・観客用通路(夜)
太田、チケットを渡し走って移動。
太田M「男性アイドルと違い、女性アイド
ルが輝く時間はほんの一瞬かもしれな
い。けど、一瞬だからこそ、その輝きは
強く美しく。僕らの心をそっと照らして
くれる」
◯同・ステージへと続く通路
望、イヤモニに手を当て頷き走る。
望M「太陽って、あの人は言ってくれたけ
ど。私は光さんみたいに自ら輝く星には
なれなかった。だけど……」
◯同・観客席に昇る階段(夜)
太田、観客席に上がる階段に息を切
らし辿り着き一度立ち止まる。
太田M「一瞬の輝きを僕らに分けてくれ
た。そんな彼女の最後が……どうか…
…」
階段を駆け上がり観客席に上がる。

◯同・観客席(夜)
一面に広がる紫のサイリウム。大音
量の望コール。
太田「なんだよ……これ」
驚き立ち尽くす。
「未来へ」のイントロが流れる。会場
、再び大歓声。
◯同・ステージ(夜)
望、ゆっくりステージに上がる。
一面紫のサイリウム。空には満月。

望M「月の様に、あなたの光に照らされて
、初めて私は輝ける。だから……私にと
っての太陽は」
視界の先に望のタオルを掲げた太田
が叫ぶ姿。
望、笑顔で歌い始める。
望のソロ歌唱が続く。
途中から他のメンバーも登場し歌い
始める。
抱き合う望と美雪。
◯同・関係者席(夜)
朔「綺麗だよ、望」
朔、ステージを見つめる。
美華、叶人、浩司、ステージを見つ
める。
◯同・観客席(夜)
太田、望を眺める。
太田「卒業、おめでとう……そして……今
までありがとう」
◯同・ステージ
望、パフォーマンスが終わりメンバ
ーに囲まれ笑顔で幕を閉じる。
◯マンション・太田の部屋
太田、パソコンで作業。
太田「ふー。休憩するか」
◯同・外観
マンションの前に引越し業者の車。
太田、コンビニ袋を持ち帰って
くる。空には昼の月が浮かぶ。
◯同・6階通路
太田、部屋の前に帰ってくる。隣の
ドアが開き、帽子とマスクをした望
がスーツケースを持って出てくる。
太田「こんにちは。お隣だったんですね。
旅行……ですか?」
望「あー。引っ越し……するんです」
太田「そう……ですか。」
望、スーツケースを開け、写真を取
り出しペンで何かを書く。
望「はい。これ……お礼」
写真を太田へ渡す。
太田「お礼? これって……俺が渡した」
望、去っていく。
太田、写真を見る。
望「あ、太田さん。……もうちょっと音量
抑えた方が良いですよ……DVD」
太田「あっすいません。……今度から気を
つけます。ってもう引っ越すのか」
望「じゃあ……私はこれで」
望、スーツケースを引き去ってい
く。
太田「お気をつけてつけて。あれ俺名前言
ったっけ?」
太田、部屋に戻ろうとするとドアの
横の表札に「OTA」と書かれてい
ることに気が付く。
太田「あー。なるほど」
太田、ドアに一度手をかけてから引
き返し隣のドアに向かい表札を見る
が既に何も書かれていない。
◯同・太田の部屋
太田、コンビニ袋と写真片手に部屋
に戻る。
グッズが飾られた棚の前に来る。
写真を一瞬眺め、棚に置き机に行
く。裏返しで置かれた写真には望の
サインと「月から太陽へ」の文字。
(終)




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