ストレンジカメレオン後編
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- 5月27日
- 読了時間: 17分

22◯ 汐留ビル・バースオフィス
山中、スマホでキャバクラの女性と
メッセージ。そこへ生嶋が通る。
生嶋「山中! 中村金属話が止まってるら
しいじゃないか。任せて大丈夫なのか?」
山中、慌てて立ち上がる。
奥田、通りがかり影から様子を見
る。
山中「社長!? じ、実はまた大野が」
生嶋「何? 大野? またか……あいつの
進退もそろそろ考えないとな」
山中「はい……。でも大丈夫です。私にお
任せください。必ず話をまとめてみせま
す」
生嶋「頼もしいな! 任せたぞ山中」
山中「はい! 必ずやご期待に」
生嶋、去っていく。
山中、慌てて荷物をまとめ始める。
奥田、山中の方へ歩いていく。
奥田「山中さん……」
山中「おう奥田。俺たちも現場行くぞ」
奥田「えっ、はい!」
23◯ 中村金属・事務所
大野、美嘉、提案書を太一に見せ
る。
大野「こちらリニューアルのデザイン案で
す」

太一「おお、早速ありがとうございます」
太一、提案書に目を通す。
提案書には中村金属の新たなデザイ
ンがCGで表示されている。
太一「いいですねー。これなら若い人もう
ちに興味持ってくれるんじゃないかな」
大野「このデザインはこちらの立花が」
太一「へー、あなたがこれを?」
美嘉「はい。あ、もちろん実際の作業の流
れとか安全面はもう少し打ち合わせ必要
です」
太一「これなら親父も考え直してくれる
と思うんだけどな」
大野「お父様はまだ?」
太一「ええ、説得はしてるんですが」
大野「宜しければ直接お話しできません
か?」
太一「良いですが、取り合ってくれるか…
…」
24◯ 同・作業場
金属を加工する作業音が鳴り響く。
浩三、青白い火花を散らし溶接作
業。
大野、その火花をじっと見つめる。

太一「親父。ちょっといいか?」
浩三「……」
太一「ったく……すみません」
大野「あ、いえ。これは何を?」
太一「ああこれはアーク溶接といって、高
温で金属を溶かして加工しているんで
す」
美嘉「綺麗……」
浩三「何か用か?」
浩三、作業をやめず後ろ向きで話
す。
大野「リニューアルの件でお話を」
浩三「そいつに聞いたろ。俺は反対だ」
太一「提案書だけでも見てくれないか?
これなら若い人だって……」
浩三「外見だけで判断する奴に、この仕事
は務まんねえよ」
大野「?」
浩三「うちで長年働いてきた職人達はな、
この仕事に情熱と誇りを持ってる」
作業場で黙々と作業する従業員た
ち。
浩三「うちの技術を支えてんのはその情熱
と誇りだ。オフィスデザインだか何だか
知らねえがな、見た目だけで集まってく
る連中にそもそもできる仕事じゃねえん
だよ」
黙り込む3人。
そこへ山中、奥田がやってくる。
山中「こんにちはー」
美嘉「げっ」
山中「どうも社長。プランの方は気に入っ
ていただけましたか?」
太一「ええ、私は満足しているんですが…
…」
山中「ありがとうございます。では早速具
体的なお話を進めましょうか」
大野「待てよ。まだそういう段階じゃ」
山中「社長がこう言ってるんだ。問題ない
だろ。さ、社長。ここから新しい中村金
属の時代を作りましょう!」
浩三「バカにすんのも大概にせえ! うち
の歴史も知らないで何が新しい時代だ
!」
太一「親父、そうは言ってもよ。このまま
じゃあうちの技術だって無くなっちまう
ぞ?」
浩三「……こんな奴らに頼るくらいなら
な。無くなった方がましだ」
大野、去っていく浩三を見つめる。
25◯ 居酒屋(夜)
テーブル席に座る大野、美嘉。
美嘉、一気にビールを飲み干す。
美嘉「もう! あいつ何しに……。大体な
んであんな人がマネージャー?」
大野「昔からアピールは上手かったから
な」
26◯ (回想)汐留ビル・バースオフィス
T「4年前」
打ち合わせをする大野、山中。
山中「いやー助かった。お前の提案がなか
ったらあの社長説得できなかったぜ」
大野「よせよ。二人で頑張った結果だろ」
山中「大野……。これからも二人で頑張ろ
う」
大野、山中、片手でグータッチ。

× × ×
翌日。
大野、社内で山中を見つけ声をかけ
ようとするが生嶋が通り先に山中と
話す。
大野、咄嗟に影に隠れてしまう。
生嶋「聞いたぞ山中。あの現場お前が全部
丸く収めたそうじゃないか」
山中「いえ、たまたま良いアイデアが」
生嶋「そうか。この調子なら昇進も早い
な」
山中「はい! 頑張ります」
大野、影からその様子を眺め驚く。
27◯ (戻って)居酒屋(夜)
大野、自分の拳を見る。
美嘉「どうかしました?」
大野「いや……ちょっとな」
美嘉「それよりどうします? 明日」
大野「明日? 悪いけどちょっと用事あっ
て」
美嘉「もう。なんですかこんな大事な時
に」
大野「半分は君のせいだからね」
28◯ 奥田の家・部屋(夜)
奥田、頭を抱え椅子に座る。
奥田「はあ、どうしよ」
29◯ (回想)・奥田の車
奥田、車の中。携帯がなり電話に出
る。
奥田「もしもし? 奥田です」
山中の声「おお、奥田〜ちょっといいか?
優秀なお前に一つ頼みがあんだよ」
奥田「はい! なんですか?」
山中の声「お前あいつらの会議に参加して
資料全部俺に回せ」
奥田「え、それってどういう?」

山中の声「いいから俺に任せとけって。そ
うすりゃ良い思いさせてやるからよ」
奥田「はあ……」
30◯ (戻って)奥田の家・部屋(夜)
奥田、大野に電話をかける。
奥田「もしもし、大野さん? 実は相談
が」
31◯ 桐丘高校グラウンド
大野、グラブを持ちグラウンドへ。
山田、ベンチから大声で指示を出
す。
大野「山田監督」
山田「おおーよく来た! えーっと……大
川」
大野「大野です」
山田「冗談だよ冗談。早速ノック打ってく
れ」
× × ×
大野、ノックバットを持ち打席に立
つ。
大野「じゃあ、サードから」
選手「(大声)お願いしまーす!」
大野、ノックを打つ。
山田「お、なかなか上手いじゃないか」
大野、次々とノックを打つ。

小川「(細い声)お願いします」
山田「小川そんなんじゃ聞こえないぞー」
小川「お願いしまーす」
大野「あの子、確か公園で」
× × ×
フラッシュ。
公園でぶつかる小川、大野。
× × ×
小川「お願いしまーす」
大野、慌ててノックを打つが、遠く
に打球が行ってしまう。
大野「あっ! ごめん」
小川、打球を追いかけるが届かな
い。
山田「小川―それじゃ使えないぞー」
小川「はい、もう一本お願いします」
大野、再びノックを打つ。
32◯ 同(夕方)
陽が傾き、着替えて下校する選手た
ち。
山田「今日はありがとな。また頼むよ」
山田、大野の肩を叩き去っていく。
大野、帰ろうとすると、一人残り素
振りをしている小川を見つける。
大野「お疲れ様。帰らないの?」
小川「はい。もう少しだけ」
大野「……君覚えてない? この前公園
で」
小川「あっ、あの時ぶつかった?」

大野「まさか後輩だったとはね。どう?
レギュラー取れそう?」
小川、首を横に振る。
小川「……監督にいつも言われるんです。
お前には野球に対する情熱が足りないっ
て」
大野「あー俺もよく言われたな。いや……
今でもか。君、名前は?」
小川「小川です」
大野「そうか。小川君。応援してるよ。あ
まり遅くならないようにね」
小川「はい! ありがとうございます」
大野、手に持ったグラブを見つめ帰
る。
大野「グローブいらなかったな」
大野、腕時計で時間を確認する。
大野「ちょっと寄ってくか」
大野、小走りで外へ出ていく。
33◯ 中村金属・作業場(夕方)
大野、作業場の入り口から中を覗
く。
作業する溶接の青い光が綺麗に輝
く。
浩三「なんの用だ?」
大野「あ、すいません。バースの大野で
す」
浩三「君か……で、何の用だ?」
大野「いや、少し近くを通ったもので」
浩三、大野が持つグラブに目をや
る。
浩三「それは?」
大野「え、ああ。さっきまで母校の手伝い
に。昔、近所の高校で野球やってたんで
す」
× × ×
大野、浩三、作業場でキャッチボー
ル。

浩三「俺が小さい頃は皆野球に夢中でな。
皆が楽しそうにやってるのを見て俺も親父
にグラブを買ってもらったんだ」
大野「そうだったんですね」
浩三「長嶋2世なんて呼ばれたりもして
な」
大野「それは凄いですね。野球はいつま
で?」
浩三「高校卒業してすぐ工場で働き始めた
からそこまでだ。君は? 上手かったの
か?」
大野「僕は全然。ずっと補欠で。それどこ
ろかお前には情熱が足りないっていっつも
怒られてましたよ」
浩三、手を止める。
浩三「情熱か……。なあ君、情熱は何色
だ?」
大野「え、色?……やっぱ赤、ですかね
?」
浩三「イメージはそうかもな。だがな、俺
達が作業する時の火花の色を知ってるか
?」
× × ×
フラッシュ。
浩三、青白い火花を散らし溶接。
× × ×
大野「青……」
浩三「そう青。青い炎はな、赤い炎の何倍
も熱い。俺も職人だ。見た目が大事だって
ことはよーく分かってる。でもな、その奥
に静かに燃える青い情熱がなきゃならん」
大野「青い情熱……。冷めた僕には無縁な
言葉です」
浩三「そうか? そのグローブ。古いが良
く手入れされてる」
大野、グラブを見つめる。
浩三「少なくとも俺はそんな道具を大事に
できる奴に情熱が無かったとは思えんが
な」
大野「いえ、そんな……僕は……」
浩三「君にもあるんじゃないか? 青い情
熱」
浩三、ボールを大野に投げそのまま
奥へ行ってしまう。
34◯ 汐留ビル・バースオフィス
大野、美嘉、オフィスの中を歩く。
社員たち、大野を見てヒソヒソ話
す。
美嘉「青い情熱?」
大野「そう。昨日そんな話になってな」
美嘉「なるほど……どうりで」
大野「ん? 何が?」
美嘉「あの先代社長、一緒なんです。大野
さんとおんなじ深い青」
大野「俺と同じ?」
美嘉「はい。つまり」
大野「つまり?」
美嘉「大野さんも将来頑固親父確定です
ね」
大野「なんだよそれ」
奥田、二人に近づいてくる。
奥田「大野さん今日から改めてお願いしま
す」
大野「おお、奥田。よろしくな」
美嘉、不思議そうに二人を見る。
大野「今日から奥田も打ち合わせに参加し
てもらうから」
美嘉「そう……。ですか」
大野、携帯が鳴り電話に出る。
大野「もしもし。あっどうも。えっ? 承
知いたしました。はいよろしくお願いし
ます」
大野、携帯をしまう。
美嘉「どうしたんです?」
大野「中村金属の社長から。先代社長が一
度だけプレゼンのチャンスをくれるっ
て」
美嘉「本当ですか? やりましたね!」
大野「早速打ち合わせに入ろう」

会議室に入っていく大野、美嘉、奥
田。
山中、その様子を影から見ている。
山中、奥田と目を合わせニヤリと頷
く。
35◯ 同・同・会議室(夜)
会議する大野、美嘉、奥田。
× × ×
時計は21時。美嘉、椅子で仮眠。
大野、奥田パソコンと向き合い作
業。
大野「よし完成。何か飲み物買ってくる
よ」
大野、会議室を出ていく。
奥田、美嘉が寝ていることを確認し
大野の席に近づきパソコンを動か
す。

美嘉、目を覚まし体を伸ばす。
美嘉「あれ、奥田さん? 大野さんは?」
奥田、慌ててパソコンから離れる。
奥田「ああ、資料完成して飲み物買いに」
美嘉「そう……ですか」
大野、飲み物を手に帰ってくる。
大野「おう、起きたか」
美嘉「完成したんですね」
大野、美嘉に飲み物を渡す。
大野「ああ。あとはプレゼン場所と日程確
認」
奥田「それなら僕に任せてください」
大野「おう。任せたぞ」
美嘉、奥田を不信そうに見つめる。
大野「じゃあ今日はもう帰るか」
奥田「あ! 僕ちょっと別件で仕事残って
るんでお二人は先に帰っててください」
大野「そうか。じゃあまた明日な」
奥田「……はい」
36◯ 歩道(夜)
大野、美嘉、歩道を歩く。
美嘉「信用していいんですか? あの人」
大野「ん? あの人って?」
美嘉「奥田さんですよ。急に打ち合わせに
入ってきて。なんか怪しくないですか
?」
大野「心配しなくても大丈夫だよ」
美嘉「でも!」
美嘉、立ち止まる。
美嘉「奥田さんって黄色なんです」
大野「黄色? ……また共感覚?」
美嘉「はい。経験上黄色は裏切りますよ」
大野「奥田が裏切るって?」
美嘉「奥田さんというか山中さんが裏で糸
を引いてる気がして。……信じてくださ
い!」
大野「別に君のことは疑ってないけど」
美嘉「けど?」
大野「ほら、中村の先代社長も言ってた
ろ? 外見で判断するなって。心配する
気持ちも良く分かる。でも俺は見た目じ
ゃなくて、そいつが何をしてきたかで判
断したいんだ」
美嘉「でも……。知ってます? 大野さん
が……クビになるかもって噂」
大野「えっ? クビ……? 俺が?」
美嘉「もう。やっぱり知らないんですね。
新人の私でさえ知ってるのに」
大野「ごめん昔から噂とかそういうの疎く
て」
美嘉「私、絶対山中さんが黒幕だと思うん
です。だから一緒にいた奥田さんだっ
て」
大野「大丈夫だって。それに裏切られたら
そん時はそん時。じゃあ俺こっちだか
ら」
大野、分かれ道を指差し去ってい
く。
美嘉「自分がクビになるかもっていうのに
なんであんなに色が変わらないの?」
37◯ 汐留ビル・バースオフィス(夜)
奥田、携帯で電話をしている。
奥田「プレゼンの日程と場所決まりまし
た。はい、日程は来週の水曜、場所は
……」
38◯ 公園(夜)
大野、公園の前を通り園内を見ると
小川が素振りをしている姿を見つけ
る。
大野「頑張ってるね。どう? 調子は?」
小川「大野さん? 監督からはまだ情熱
がって。……自分も変わらなくちゃっ
て思ってはいるんですけど」
大野「無理に変わろうとしなくて良いん
じゃないか?」
小川「えっ?」
大野「ほら、前に言ったろ? 俺も監督に
情熱がないって言われてたって」
小川「……はい」
大野「でもこの間ある人に言われたんだ。
君に情熱がなかったとは思えないって。
何でそう思ってくれたかは分からない。
けど、今までの自分が少し報われた気が
してさ。見てくれる人はいるんだ。無理
に周りに合わせて自分を変える必要はな
いんだって。まあ俺の場合、もう逆立ち
しても変われないって諦めてるだけかも
しれないけど」
小川、豆だらけの自分の手を見る。
大野「多分、君も心に青い情熱を灯して
る」
小川「青い情熱?」
大野「そう。その人に教わったんだ。青い
炎は赤い炎の何倍も熱い。静かに燃える
青い情熱があるってことをさ」
小川「青い情熱。なんかいいですね! あ
っ!」
大野「ん?」
小川「情熱って青入ってないですか? ほ
ら」
小川、「情」と地面に書く。
大野「あ、本当だ! 君天才か?」
大野、小川、笑い合う
39◯ 中村金属・外観
T「プレゼン当日」
山中、入り口前で鏡と櫛で髪型を直
す。

山中「送られてきた資料も読み込んだ。成
功すれば俺の手柄。失敗しても大野がク
ビになるだけ。ふふ。……しかし奥田お
せえな。まあいい、先に入っとくか」
40◯ 同・作業場
山中、従業員に話しかける。
山中「すいません。バースの山中です。社
長さんいらっしゃいますか?」
従業員「社長? 今日いないよ?」
山中「え? そんなはずは」
従業員「もういい? 忙しいんだよ」
山中「どういうことだ? そうだ! 奥
田!」
山中、携帯を取り出し電話をかけ
る。

41◯ 汐留ビル・外観
奥田、携帯が鳴るが画面を見て閉じ
る。
大野「ん? いいの?」
奥田「大丈夫です。僕……もう決めたん
で。ついていく人」
大野「……なんの話?」
美嘉「あ! 来ましたよ」
浩三、太一、歩いてやってくる。
42◯ 同・バースオフィス
エレベーターが開き浩三、太一、先
にオフィスに入り内観に驚く。
太一「このフロア全部バースさん?」
奥田「はい、お客様に少しでもリニューア
ル後のイメージを持っていただくために
ショールームとしても利用してます」
浩三、中を見渡す。
大野「少し、見学して行かれます?」
× × ×
オフィスを見学する一行。
浩三、社員が笑顔で働く姿を目にす
る。

43◯ 同・同・会議室
会議室へ入っていく一同。
大野「改めましてこの度は貴重なお時間を
ありがとうございます」
浩三「堅い話はいい。聞かせてくれ。君
の、いや君達の考えを」
大野「はい」
奥田、大野とアイコンタクトし資料
をモニターに映す。
生嶋、会議室の外からプレゼンを覗
く。
44◯ (回想)・同・同
奥田、歩く生嶋に近づく。
生嶋「奥田? どうした」
奥田「実は中村金属の件でお話が」
45◯ (戻って)・同・同・会議室
生嶋、大野を見つめる。
大野「現状の課題は二つ。工場の老朽化と
従業員の高齢化です」
太一、頷く。
大野「別々に見えるこの2つをまとめて解
決するのが我々バースの提案となりま
す」
画面にリニューアルされたシルバー
基調の外観イメージや整えられた工
場内、事務所が映しだされる。
太一「おお、これは凄い……」
大野「コンセプトはデザイナー立花から」
美嘉、頷き立ち上がる。
× × ×
美嘉、プレゼンを行う。
大野、変わってプレゼンを続ける。
奥田、パソコンでプレゼンをサポー
ト。
浩三、腕を組み真剣な表情。
× × ×
大野「以上が我々のご提案となります」
太一、何度も頷くが浩三は腕を組ん
だまま沈黙が続く。
浩三「一つ……いいか?」
大野「ええ」
浩三「安全面からも老朽化した工場を新し
くする必要性は理解している。だが見た
目を綺麗にしただけで本当に熱意のある
情熱を持った若者たちが来てくれるか?
どうにも俺にはそこが引っかかってな」
大野「情熱……情熱は初めから必要です
か?」
浩三「なに?」
大野「野球やられてたと言ってましたよ
ね? 始めから情熱を持っていました
か?」
浩三「……いやそう言われると」
大野「私もです。でもどんどんのめり込ん
で気づけば高校まで。……思ったんで
す。情熱はじっくりと心の中で育つもの
だと」
浩三「じっくりと、心の中で?」
大野「はい。ですからこのプランはあくま
で中村金属で働きたいと思ってもらう
きっかけ作りに過ぎません」
浩三「新しくなった工場を見て、うちで働
きたいと思う若者が増えるって?」
大野「いいえ、工場が新しくなっただけで
はダメです。そもそもこのデザインは若
者のためのものではありません」
浩三「どういうことだ? 話が見えんぞ
!」
大野「このデザインは今工場で働く方のた
めに設計しました。つまり我々が本当に
変えたいと思っているのはお二人を含め
た中村金属で働く全ての方の心なんです
!」

浩三、太一、顔を見合わせる。
大野「初めて打ち合わせした日。従業員の
方の表情が私には曇って見えました」
× × ×
フラッシュ。
工場で作業する従業員。
事務所でお茶を持ってくる女性。
× × ×
大野「工場という外見を整えることも確か
に大事です。ですが一番大切なのはその
中身、つまりどんな人がどんな気持ちで
働いているのかではないでしょうか?
仰ってましたよね? みんなが楽しそう
に野球をやっているから自分も始めた
と」
浩三「……」
大野「これから働きに来る若い世代にとっ
て今働く従業員の姿はそのまま自分たち
の未来。だからこそ、今、中村金属で働
く人に働く幸せを感じ自然と笑顔が溢れ
るようなそんな空間を一緒に作り上げた
いんです」
浩三「……」
大野「そのためにはまだ情報が足りないん
です! 教えてください……何に困って
いるのか。何が工場にとって大切なの
か。
長年中村金属を守ってきた方にしか分か
らないことがきっとあるはずです!」
浩三を見つめる4人。
浩三「……部外者のくせに生意気な」
太一「親父!」
浩三「だがな……そんな部外者にここまで
言われて動かない程俺も老ぼれちゃいね
ぇ」
浩三、立ち上がり大野の方を向く。
浩三「よろしく頼む」
浩三、笑顔を見せ大野に頭を下げ
る。
大野「こちらこそ。よろしくお願いしま
す」
大野、深々頭を下げる。
美嘉、奥田安堵の表情。
生嶋、会議室の外で頷く。
そこへ慌てて山中がやってくる。
生嶋「山中。少し話がある。後で社長室
に」
山中「はい……」
46◯ 中村金属・外観
T「半年後」
リニューアルされた外観。
47◯ 同・事務所
綺麗な事務所に創業当時の古い写
真。
席に着く大野に丁寧にお茶が置かれ
る。
女性社員「どうぞ」
振り返ると女性が笑みを浮かべてい
る。
美嘉「ありがとうございます」
そこへ笑顔の太一がやってくる。
太一「すいませんお待たせして。お陰様で
求人の問い合わせも増えてきましたよ」
大野「順調なようで何よりです。お父様
は?」
太一「ああ、父は今日も作業場です。工場
が新しくなって自分も若返った気がする
って」
48◯ 同・作業場
浩三、以前よりも柔らかい表情で作
業。

49◯ 同・外観
外に出てくる大野、美嘉、奥田。
奥田「聞きました? 山中さん今までの不
正が色々バレて大変らしいですよ」
美嘉「自業自得ね。あんたも気をつけなさ
い」
奥田「俺? お、俺はそんなことしない
よ」
大野「お前らいつそんなに仲良くなった
?」
美嘉「この人結構いじりがいあるんですよ
ね」
奥田「言っとくけど俺の方が年下だけど先
輩だからな。それより、時間大丈夫です
か?」
大野「やばい。急ごう!」
50◯ 野球場・観客席
観客席で試合を見る大野、美嘉、奥
田。
スコアボードに9回裏、桐丘2−3
大山
51◯ 同・ベンチ
山田「2アウト満塁。バッターは4番田
中。行ける! 一打逆転サヨナラだ!」
選手1「監督! 田中がさっきの守備で足
を」
山田「何―! えーと、代打、代打」
田中「監督。ここは小川しかないですよ」
小川「えっ?」
山田「小川? いやでも小川か……」
選手2「いや小川ですよ。こいつが陰でど
んだけ頑張ってきたか俺ら知ってるん
で」
小川「みんな……」
山田「そうか……。よし! 行ってこい」
52◯ 同・観客席
場内アナウンス「バッター田中君に変わり
まして小川君。バッター小川君」
大野「頑張れ小川君」
53◯ 同・グラウンド
打席に入る小川。
ピッチャーのボールを打ち返し打球
が外野を越えランナーが帰ってく
る。
皆に囲まれ笑顔を浮かべる小川。
大騒ぎのスタンド。
ハイタッチする美嘉と奥田。
大野、小川を見つめ。その姿に高校
時代の自分を重ねる。

(終)



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