喫茶レトロ〜記憶の断片〜後編
- mycolorpart0
- 5 日前
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更新日:23 時間前

後編スタート
◯同・喫茶店・外観
外の掃除をするパンダの店員。
◯同・喫茶店・店内
制服の忠司、亮、席に。店内にマス
ター、佳奈。
亮「体はもう大丈夫か?」
亮、いちごパフェを食べる。忠司ア
イスコーヒーを飲む。
テーブルの上にはゲーム機と写真。
忠司「ああ、迷惑かけたな」
亮「今日、上田さんいないな」
亮、店内を見渡す。
忠司「だな」
亮「なんだよ。ちょっとは気にしろよ。上
田さんも心配してたぞ」
亮、ゲームを持ちスイッチを入
れる。
忠司「上田あすか……なあ、ちょっとあい
つのことで」
亮「えっ!? どういうこと?」
亮、ゲーム画面を見て驚いた表情。
亮「名前のとこよくみてみろ」
忠司、ゲームのステータス画面を見
る。画面に『あすか』の文字
忠司「……やっぱり」
亮「え?」
忠司「ここに出入りしている人物であすか
なら間違いなく上田あすか」
亮「なら眼鏡の女の子も上田さん?」
忠司「あとこれ。全部同じ角度から撮られ
てる。ちょうどこのケースが落ちて
たって場所から」
忠司、写真を見せる。
亮「本当だ!」
忠司「で、いつもあいつが座っている席」
あすかがいつも座っている席を指
差す。
亮「偶然……はないな。でも何で昔のこと
黙ってんだ?」
忠司「さあ? 直接聞くか」
立ち上がる忠司。
亮「あ、その前に一個確認」
忠司、亮、マスターのところへ
行く。
マスター「お、どうした。またなんか用
か?」
亮「マスター……娘さんを僕にくださ
い!」

忠司「は!?」
マスター「誰がお前みたいなチャラ男に可
愛い娘をやるか」
亮「その気持ち分かります。あんな可愛い
女性は世界中見渡してもなかなか」
マスター「おーよく分かってるじゃない
少年」
亮「きっと小さい頃から可愛かったんだろ
うなー。昔の写真とかないんです
か?」
マスター「あすかは昔から可愛かったぞー
。特別に昔の写真を見せてやろう」
携帯を取り出しスワイプしながら写
真を見せる。
そこには小学生の頃の前髪が長く眼
鏡をかけたあすか。
一枚だけ昔の黒田煌太らしき後ろ姿
が混じる。当時の印象より少し体が
大きい。
忠司「ん?」
亮「忠司、どうだ?」
忠司「あっ、ああ、間違いない記憶通り」
小声で話す二人。
マスター「あすかはママに似て大人しいけ
ど、嫉妬深くてな。まあそこが可愛
いんだけど」
亮「眼鏡?」
マスター「ああ、昔からゲームとか本ばっ
かでな。今はコンタクト」
亮「へー、ちなみに奥さんとはどこで?」
マスター「良くぞ聞いてくれた! ママは
同級生で皆の憧れ。けど俺とは運命
で結ばれててな、どこ行っても偶然
出会うんだ。一番驚いたのは、爺さ
んの墓参りでバッタリ会った時だな
。そんなんが三ヶ月ぐらい毎日続い
たからこれは運命だ、と思って俺の
方から告白したんだ」
忠司「墓参り?」
亮「毎日? いやそれただのストーカー」
マスター「ん? 何か言ったか?」
亮「いえ」
マスター「とにかく、娘はやらんぞー」
コーヒを入れながら二人を追い
払う。
◯同・喫茶店・外観
忠司、亮、二人で外に出てくる。
亮「眼鏡の少女は上田さんで確定。でも、
なんで黙ってたんだ?」
忠司「本人に直接聞くしかないだろ」
二人の目の前にパンダの店員。小さ
い子供に風船を渡す。隣に母親
の姿。
子供の母親「ありがとうございます。ほら
コウちゃんもありがとうは?」
コウちゃん「ありがとう」
パンダの店員、親子に手を振り見
送る。

亮「何やってんだ。やっぱ怪しい」
忠司「風船渡してるだけだろ」
亮「いやだからなんで?」
忠司「良いから行こうぜ」
パンダの店員、立ち去る二人を見つ
める。影から店を覗くスーツの男が
二人。
◯同・公園・ベンチ
あすか、制服でベンチに座って
いる。
あすか「お父さん……あの日何してた
の?」
あすかの携帯が鳴り画面を見る。画
面に伊藤忠司の文字。
驚いて携帯を落としそうになる。
あすか「えっ? えっ? 何」
深呼吸をして通話ボタンを押す。
あすか「……もしもし?」
亮の声「あ、上田さん? 俺俺、亮だ
けど」
あすか、通話を切る。すぐに着信が
鳴り通話ボタンを押す。
亮「何で切っちゃうのよ」
あすか「ごめんなさい、電波が悪くて。…
…で、なんであなたが?」
亮「いや、あいつ今トイレ行ってて代わり
にかけてんの。俺の携帯からかけて
も繋がらないんだよ」
あすか「……気のせいよ。で要件は?」
× × ×
数分後。あすかのいる公園のベンチ
に到着する忠司、亮。
× × ×

ベンチの前に立つ三人。
あすか「話したいことって?」
忠司「なんで黙ってた? 同級生だったん
だろ?」
あすか、驚いて振り返り忠司を
みる。
あすか「私のこと思い出してくれたの
!?」
忠司「いや、これが眼鏡の女の子のものっ
てことは思い出した。その子が君だ
ってことはマスターから見せてもら
った昔の写真で分かった」
忠司、ゲームをあすかへ返す。
あすか「そう……。じゃあ全部思い出した
わけじゃ」
忠司「でももう一つ、あの空き家にゲーム
を取り返しに行ったことも思い出し
た。それで、取り返すのに失敗して
次の日クラスで……」
あすか「ごめんなさい! 私あの時本当の
こと言う勇気がなくて……」
あすか、頭を下げて声を絞り出す。
忠司「謝って欲しいわけじゃない。俺が勝
手に助けようとして勝手に失敗した
だけ」
あすか「勝手にって……。私は嬉しかった
。あなたが助けてくれて」
あすか、俯き沈黙が続く。
亮「あのー。そもそも何で同級生だったこ
と黙ってたの?」
あすか「いや、その、自然と思い出して欲
しかったというかなんというか」
照れながら、徐々に小さい声に
なる。
亮「この写真は?」
あすか「え、写真? あーこれは、そう!
クラスの友達に頼まれたの。ほら
伊藤君結構女子に人気あるから」
亮「え、まじ? 俺の写真は頼まれてな
い?」
あすか「バカで助かるわ……」
小さな声で呟く。
亮「ん? 何て?」
あすか「ううん、何も」
忠司「そういえばそのゲーム。あの日取り
返せなかったのにどうやって?」
あすか「……そのことだけど実はあいつが
行方不明になった前の日」
◯回想・あすかの家(夜)
六年前。祭壇のあるリビングで本を
読むあすか(11)。
「ガチャ」と音がして玄関に向かう
あすか。
あすか「パパ、おかえり」
マスター「あれ、起きてたの? 寝てて良
いって言ったのに」
あすかの頭を撫でリビングに向かう
。リビングで上着を椅子にかける。
マスター「風呂入ってくるからもうお部屋
で寝なさいね」
風呂場へ向かう。
あすか「うん」
部屋に向かう途中椅子にかけた上着
が床に落ちる。あすか気づいて拾う
と、ポケットに大きな膨らみを感
じる。
あすか「ん?」
ポケットに入っているものを取り出
すとゲーム機が出てくる。
あすか「え? パパ取り返してくれた
の?」
上着を椅子にかけ、ゲームを持ち部
屋に向かう。
◯(戻って)町・公園・ベンチ
あすか「あいつにいじめられてること相談
した直後だったから、お父さんが取
り返してくれたんだってあの時は思
ってた。でも次の日からあいつがい
なくなって。それからこの前空き家
に行った時、オーナーが言ってたで
しょ?」
× × ×
フラッシュ。
オーナー「ここ数年は内見も一件。しかも
こんな町外れで喫茶店を開きたいっ
ていう変わりもの」
× × ×
あすか「喫茶レトロは5年前にオープン。
六年前なら内見に行ってても……」
忠司「マスターがあの空き家に?」
亮「え? じゃあ忠司が思い出した空き家
で倒れてた黒田煌太ってまさか」
忠司「おい!」
亮「あ、ごめん」
あすか「あいつがあの空き家で倒れてた?
えっ? ……じゃあやっぱりお父
さんが?」
あすか、膝から崩れ落ちゲームを地
面に落とす。
亮「まだそうと決まったわけじゃ……」
あすか「私のせいだ。相談なんかしたから
。私が弱かったから!」
亮「いじめてる奴の方が悪いに決まってん
だろ。……本当にマスターが? あ
ーもうどうなってんだ!」
忠司、あすかに近づき腰を落とす。
忠司「……なあ。可能性だけで悩むのはや
めないか?」
あすか、俯いたまま話を聞く。
忠司「俺も目の前で血を流して倒れた黒田
煌太を思い出した時、もしかして俺
がやったのかって思った」
あすか「あなたがそんなことするはずな
い!」
あすか、顔を上げ怒る。
忠司「ありがとう。でも本当のことは分か
らない。今でも正直怖い。ただ……
自分が知らない過去の自分まで信じ
てくれる人がいるってことは分か
った」
涙目のあすか、照れくさそうな亮
の顔。
◯同・忠司の家
洗濯した忠司の体操着を干す泰子。
◯同・公園・ベンチ
忠司「過去の自分を知るのは怖い。けど、
今の自分を信じてくれる人がいる。
だから信じてみようと思う。過去の
自分のことも」
あすか「でも……」
あすか、俯く。
忠司「信じてるだろ? お父さんのこと」
あすか、忠司の目をみる。
◯(回想)・あすかの家・リビング
十一年前。祭壇に亡くなったあすか
の母親の写真。
喪服を着たあすか(5)マスター(
29)が祭壇の前で正座をし手を合
わせている。
マスター「あすかちゃん……ママの分まで
一緒に長生きしようね」
あすかの頭を撫でる。あすか、
頷く。
◯(回想)・公園・ブランコ

六年前。あすか(11)が乗るブラ
ンコを押すマスター(34)。
あすか「パパ、もっと強く」
マスター「よーし、行くぞー」
◯回想・小学校・正門
四年前。あすか(12)、マスター
(36)、卒業式のフォーマルな
服装。
卒業式と書かれた看板前で写真を
撮る。
眼鏡はなく無表情のあすかの横で涙
を流すマスター。
マスター「……大きくなったね」
あすか「お父さん」
マスター「ん?」
あすか「泣かないで、恥ずかしいから」
◯回想・あすかの家・リビング
1年前。あすか(15)がパジャマ
姿で目を擦りながらリビングに
くる。
マスター(39)がキッチンにいる
姿。マスター、お弁当を作って
いる。
マスター「よーし、完璧!」
あすか「……ありがとお父さん」
あすか微笑みながら、マスターに聞
こえない声で呟き部屋を出る。
◯(戻って)町・公園・ベンチ同
忠司「付き合いは短いけど、俺だって信じ
てる。マスターのこと」
あすかに手を貸し、ベンチに座ら
せる。
あすか「……うん。私も信じてる。お父さ
んのこと」
あすか、涙を拭い忠司をみる。
忠司「まあちょっと変わった人だけど」
亮「ちょっとじゃねーだろ」
あすか「あなたの方が変わってるわよ」
亮「えー」
笑い合う三人。
◯同・あすかの家・玄関(夜)
あすか家に入るとマスターの鼻歌が
聞こえる。あすかリビングに入る。
キッチンで料理をしているマス
ター。
マスター「おかえりー。遅かったね」
あすか「うん。ちょっと……友達と」
マスター「へー友達と……友達!?」
驚き振り返ってあすかを見る。
あすか「何?」
あすか、マスターを睨む。
マスター「いや。そうか友達か友達ね」
再び背を向けて料理を再開する。
あすか「ねえ」
マスター「ん?」
背を向けたまま返事をする。
あすか「私に隠してることない?」
マスター、手を止め、振り返る。
マスター「……あすかちゃん。実は」
あすか、少し不安げな表情。
マスター「明日のお弁当、今日の残り物に
なっちゃうかも」
見つめ合い沈黙が続く。
あすか「……そう。……別にいいけど」
マスター「ほんと? よかったー」
あすか振り返って微笑みリビングを
出ていく。マスター、少し暗い
表情。
◯同・高校・正門
制服の忠司が門の外に立っている。
そこへ後ろから走ってくる亮。
亮「よ! 待たせたな」
忠司「おせえよ」
亮「悪い。で何か思い出したって?」
忠司「いや、気になることがあって」
歩き始めたところで忠司の携帯が鳴
る。画面にあすかからのメッセージ
通知。
忠司「ん。え? おいこれ」
亮に画面を見せる。「助けて」の文
字と喫茶店の前に止まるパトカーの
写真。
亮「これって」
顔を見合わせ、慌てて走り出す
二人。
◯同・喫茶レトロ・外観
店の外に止まるパトカー。

◯同・同・店内
店内にはマスターと黒いスーツを着
た警察二人。佳奈、あすか。
警察1「先日、行方不明者に関する情報提
供がありまして」
マスター「行方不明……」
警察2「ご存知ないです? 六年前の小学
生失踪事件」
あすか、驚いて手で口を塞ぐ。
警察1「行方不明者によく似た人物がここ
にいると通報がありまして」
警察1写真を見せる。そこには佳奈
が真希に送った男の横顔の写真。
佳奈「え? これって私が真希に送った
……」
警察2「六年前なんで、人違いと思います
が、念の為捜査にご協力いただけま
す?」
マスター「……」
マスター写真を確認する。
様子を奥の扉からみていたパンダの
店員、扉をから飛び出し、全員が振
り返る。
警察1「ん? パンダ?」
パンダの店員、走り出し警察官の前を
通り過ぎて出口に向かう。
マスター「おい! どうした! ……まさ
かあいつ」
◯同・同・外観
到着した忠司、亮、入り口前で扉が
開きパンダの店員とぶつかりそうに
なる。
忠司「パンダ?」
パンダの店員、二人の間を走り抜
ける。
亮「どうしたんだあいつ?」
マスター、店から飛び出てくる。
マスター「おお、ちょうど良かった! お
前らあいつ頼む」
亮「え? どういうこと?」
警察も外に出てくる。
警察2「すいません。今の方は?」
マスター「いいから早く! いけ!」
忠司「分かった。いくぞ」
亮「お、おお!」
忠司、亮、走り出す。それを追って
店から出てきたあすかも走り出す。
◯同・国道
パンダの店員被り物をとって走りな
がら捨てる。追いかける3人。
◯同・同・横断歩道
三人視点で遠くの横断歩道に辿り着
くパンダの店員。
三人を見て信号のボタンを連打。諦
めて歩道橋を登る。
歩道橋まで追いつく三人。信号が
青に。
忠司「二人はそっち!」
亮「オッケー」
亮、あすか、横断歩道を渡る。忠司
、歩道橋を昇る。
パンダ店員、歩道橋の反対側にたど
り着くと下に亮とあすかが見え
引き返すが反対側に忠司。
忠司「はあはあ、もう諦めろ」
パンダの店員、歩道橋から飛び降り
ようとする。忠司、慌てて止めに
入る。
亮「おいおいおい!」
亮、登ってきて忠司と一緒に引き止
めて歩道橋へ引きづり落とし、倒れ
込む忠司、亮、パンダ店員。

あすか「はあはあ、大丈夫!?」
追いついて倒れ込む三人に駆け
寄る。
亮「はあはあ、どういう状況? なんでこ
いつ追いかけてんの?」
あすか「突然警察が来て……あいつがいる
んじゃないかって」
忠司、立ち上がってうつ伏せに倒れ
て顔が見えないパンダ店員の
首筋の火傷のようなアザを見る。
忠司「やっぱりお前か。……黒田煌太」
驚いた表情のあすか、亮。
立ち上がり顔を見せるパンダの店員
改め黒田煌太(17)
煌太「……忠司」
◯同・公園・噴水前

あすか「あなた生きてたの……」
煌太「……忠司、なんで分かった?」
煌太、忠司に問いかける。
忠司「その首のあざ」
× × ×
フラッシュ。亮がパンダの店員の被り物を
後ろから取ろうとして首筋のあざが見える
× × ×
忠司「記憶のお前にも同じあざがあった」
× × ×
フラッシュ。町外れの空き家で血を流した
煌太の首筋に火傷のようなあざ。
× × ×
忠司「そしてもう一つ。マスターの携帯に
昔のお前に似た写真があった」
× × ×
フラッシュ。マスターがスワイプす
る携帯に煌太の写真。
× × ×
煌太「写真?」
忠司「ああ。あれは明らかにお前が消えた
後撮られたもの。だから生きている
可能性があると思った」
煌太「あの人……俺の写真なんか携帯に」
あすか「ちょっと待って。何でお父さんが
あなたを? いつから?」
煌太「お前からしたら意味わかんねえよな
。あの人どうかしてる。自分の娘を
いじめてた俺なんかを助けたんだ
から」
あすか「助けた? あなたを?」
煌太「ああ、俺……父親に虐待されてた
んだ」
袖を捲ると沢山の火傷のあと。
亮「ひでえ……なんだこれ」
煌太「タバコの跡だよ。
袖をしまう。
煌太「父親と二人だった俺にとって虐待は
日常。いつ死のうか。そればっか考
えてた」
◯回想・同・同(夕)
六年前。公園の噴水前一人ボールを
持ち俯き佇む煌太(11)。その視
線の先に、あすか(11)、マスタ
ー(36)が楽しそうに手を繋いで
帰る姿。
煌太(N)「羨ましかった。優しい親がい
る普通の生活が。なんで自分だけ。
そう思ったら……周りの奴らに腹が
立って、平気で人を傷つける奴にな
ってた」
◯(戻って)・同・同・同
あすか、俯く。
煌太「許してくれなんて思ってない。俺が
やったことはあいつと同じただの弱
いものいじめ……そう気づかせてく
れたのは忠司、お前だ」
忠司、少し驚いた表情。
煌太「ゲームを奪い合った次の日、クラス
の奴らお前を泥棒扱いしたろ?」
忠司「ああ……」
煌太「正直怖かった。本当のことがバレた
らって。でもお前は何も言わない。
なんで言わねぇんだって思ったけど
、こいつを守るためだったんだよ
な?」
あすかを指差す。
忠司「……」
煌太「お前に嫉妬したよ。なんで俺はこっ
ち側なんだって、なんで助ける側じ
ゃないんだって。……そう思ったら
もう全部終わりにしたくなって、お
前を空き家に呼び出した」
◯回想・同・空き家・二階
六年前。煌太(11)、ソファの前
でバックを背負い立っている。
煌太(N)「あの日、俺はゲームをお前に
預けてから自殺するつもりだった」
下の階から「ガチャ」という音とと
もにマスター(36)の鼻歌が聞こ
える。煌太、慌てて窓から脱出しよ
うとする。
マスター「あのオーナーもいい加減だよな
、鍵だけ渡して勝手に見てこい
って」
マスター、階段を昇りながらつぶ
やく。
◯同・同・外観
忠司(11)空き家へ到着し二階窓
から梯子で降りようとする煌太が見
える。
忠司「ん、煌太?」
煌太、足を滑らせて地面へ落ちる。
忠司「煌太!?」
バックを担いだまま倒れた煌太に駆
け寄る忠司。体を揺すり声をか
ける。
忠司「煌太! おい煌太! しっかりし
ろ!」
自分の手を見ると血がついている。
忠司「そうだ救急車!」
携帯を探すが見つからない。
忠司「携帯はこの前……。くそ!」
煌太をおいて走り出す忠司。
◯同・同・2階
外から大きな物音が聞こえる。
マスター「なんだ!?」
窓から外を見渡すと倒れた梯子と煌
太の姿。すぐに一階へと走る。
◯同・同・外観
マスター、入り口から飛び出て辺り
を見渡し倒れた煌太を見つけ駆け
寄る。
マスター「おい! 大丈夫か?」
煌太「うう……」
マスター「上から落ちたのか?」
マスター、煌太が背負ったバックを
外す。煌太、マスターの顔をみる。
煌太「……上田あすかの父ちゃん?」
マスター「ん? 君、あすかちゃんの友
達?」
煌太「いや、俺は……。うっ」
煌太、起きあがろうとして身体の痛
みを感じ固まる。
マスター「おいおい無理するな」
マスタ―、煌太の頭から出血を
確認。
マスター「少し血が出てるけど大した傷じ
ゃないから安心しろ。他に怪我ない
か?」
マスター、煌太の身体を確認する。
マスター「ん?」
腕の袖から火傷の跡がみえ、袖を全
部捲るとあざや火傷だらけの腕が見
える。
マスター「これは……。とりあえず、病
院へ」
煌太「ほっといて……このまま死にたい
んだ」
マスター「何言ってんだお前」
煌太「俺……上田あすかをいじめてた」
マスター「え? 君、もしかして……」
煌太「……もうどうでもいい。最期にあい
つらに謝ることもできない。もうこ
こで死なせて」
煌太の視線の先にバックからはみ出
たゲーム機。
マスター、しばらくの沈黙の後、煌
太にデコピンをする。
煌太「いてっ!」
マスター「なーに言ってんだ。これくらい
で人は死なねえよ」
煌太「でも、あいつのとこに帰るくらいな
ら……そうだ次はもっと高いところ
から」
マスター「馬鹿野郎! この世にはな、生
きたくても生きられない奴がいるん
だよ! ……俺が何とかしてやる」
マスター、煌太を抱えて歩き出す。
煌太「無理だよ、役所の人全然使えない。
あいつ、反省したふりだけで」
マスター「大丈夫」
煌太「いじめてたんだぜ……」
マスター「だから?」
煌太「……」
マスター「俺がお前に平凡で退屈な人生っ
てやつを教えてやる」
◯(戻って)・同・公園・噴水前
あすか「やっぱりお父さんあそこにいた
んだ」
忠司「そうだ、あの日俺は2階から落ちて
きたお前を見て」
◯(回想)同・国道
六年前。忠司(11)、歩道を
走る。
忠司「早く誰か呼んでこないと」
× × ×
フラッシュ。小学校の教室でクラス
メイト数名から「泥棒」と連呼さ
れる。
× × ×
忠司、立ち止まり手についた血を
見る。
忠司「もし、誰も信じてくれなかった
ら?」
その場にしゃがみ込み過呼吸に
なる。
クラスメイトたちの「泥棒」「人殺
し」という幻聴が聞こえる。
忠司「違う、違う、俺じゃない、俺じゃな
い……」
忠司、意識を失い頭から倒れる。
◯(戻って)同・公園・噴水前
忠司「目が覚めた時には何も思えてなか
った」
あすか「あなたはその後?」
煌太に問いかける。
煌太「木がクッションになったのか本当に
たいした怪我じゃなかった。それか
らあの人は、知り合いに俺を一旦預
けて、喫茶店ができてから今日まで
ずっと俺をあそこで匿ってくれ
てた」
亮「それで行方不明に。……でもそれ
って」
煌太「ああ、俺の意思でも未成年を誘拐し
た犯人ってことになっちまう」
あすか「そんな! お父さんは間違ったこ
としてない」
煌太「その通りだよ。あの人に保護されて
なきゃ俺はとっくに」
忠司「お前の父親は?」
煌太「死んだ。借金に首が回らなくなって
その後……いなくなって清々し
てる」
亮「なあ、このままだとマスターやばいん
じゃない?」
忠司「何とかしないと」
煌太をおいて公園を出ようとする
三人。
煌太「待てよ」
立ち止まる三人。
煌太「黒田煌太は六年前に死んた。それで
いいだろ?」
あすか「どういうこと?」
忠司「お前……死ぬつもりじゃないよ
な?」
亮、あすか、驚いて煌太の顔を見る。
煌太「俺はこの六年充分生きた。平凡だっ
たけど、それまでのクソみたいな人
生の何倍も何十倍も幸せな平凡だっ
た。そんな平凡な幸せを教えてくれ
たあの人に迷惑はかけられねえよ」
あすか「勝手なこと言わないで! ……あ
なたが私にしたことは許せない。で
もそんなあなたまで助けようとした
お父さんを誇りに思う。お父さんが
救った命、簡単に捨てるなんて私が
許さない!」
煌太「じゃあどうしろってんだよ! ……
頼むから死なせてくれ。お前をいじ
めてたせめてもの償いを」
そこへマスターがやってきて煌太に
近づく。
マスター「お前今なんて言った?」
あすか「お父さん!?」
マスター「まだ分かってねえのか! 言っ
たろ? 明日を生きたくったって生
きられないやつがいるんだよ! 俺
の奥さんだってな、生きたいって毎
日俺に言いながら死んでったよ。死
ぬなんて簡単に言うんじゃねえ!」
煌太、その場に崩れ落ちる。

煌太「……でも俺どうしたらいいか分から
なくて」
マスター「何もしなくていい。子供は生き
るのが仕事だ」
亮「でもどうする? このままだとマスタ
ー捕まっちまうぜ?」
忠司「こいつには悪いけど、一旦どっかに
隠れてもらうしか」
あすか「どっかってどこ?」
マスター「なんで隠れる必要があるん
だ?」
亮「話聞いてました? このままじゃ」
マスター「心配すんな。警察には正直に
話す」
忠司「でもそれじゃあ」
マスター「いいんだ。俺は自分が正しいと
思うことをやっただけ、何も後悔し
てない。それにまだお前に本当の平
凡な人生を教えられてないしな」
煌太「俺はもう充分」
マスター「馬鹿かお前。名前も顔も隠して
こそこそ生きるのが普通な人生なわ
けないだろ。煌太。胸はって堂々と
生きろ」
煌太、涙が溢れる。
あすか、マスターの胸に顔を埋
める。
マスター「ごめんな、一緒にいてあげられ
なくて」
マスター、あすかの頭を撫でる。あ
すか、首を横に振る。
マスター「すぐ戻ってくるからその間留守
番よろしくな。……おい! そこの
二人」
マスター、忠司と亮の方を指さす。
マスター「この子のこと頼んだぞ」
忠司「うん。分かった」
マスター、あすかを離し出口へ向か
い途中で振り返る。
マスター「絶対手ぇ出すんじゃねえぞ!」
再び出口に向かい待っていた警察官
二人と合流。その姿を見つめる
四人。
◯同・国道・横断歩道
T『3ヶ月後』
制服を着た煌太、信号を渡る杖をつ
いたお婆さんの荷物を持って一緒に
渡る。
お婆さん「ありがとう、最近は優しい子が
多いのね」
煌太「ほらよ、じゃあ気をつけてな」
煌太、荷物を返し見送る。
◯同・公園・ベンチ
亮、制服でベンチに座って携帯を見
る。画面にはSNSアプリ。『喫茶
店マスターの真実』という投稿が見
える。
亮「どれどれ……おお! 3万いいね!
この調子でもっと広まってくれよ」
◯同・あすかの家・リビング
あすか、制服で祭壇に手を合わ
せる。
あすか「ママ、お父さんは世界一カッコい
いお父さんだよ」
立ち上がり部屋を出る。
◯同・あすかの家・あすかの部屋
机にゲーム機と忠司の写真、カメラ
。あすかが入ってくる。ゲーム機を
『彼との思い出』と書かれた引き出
しにしまい、写真を部屋の壁に貼り
付ける。
あすか「やっぱり私の世界一はこっち」
部屋全体が映し出され、壁一面に忠
司の写真が飾られている。

◯同・忠司の家・玄関
靴を履く制服の忠司の横に新聞が置
かれている。誌面には小さく「未成
年誘拐事件不起訴か?」の見出し。
◯同・同・外観
忠司、ドアから出てくる。
泰子「忠司―、忘れ物」
泰子、出てきて体操の袋を渡す。
泰子「いってらっしゃい」
忠司、走り出してすぐ止まり振り
返る。
泰子「ん?」
忠司「いってきます。……母さん」
忠司、小さく敬礼をし走り去る。
× × ×
フラッシュ。六年前、忠司(11)
が敬礼して家を出ていく姿が重なる
× × ×
泰子「忠司?」
涙を流し笑顔で見送る。
◯同・公園・入口
忠司、亮と合流して走り去って
いく。
(終)。


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