喫茶レトロ〜記憶の断片〜
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- 4 日前
- 読了時間: 41分
更新日:2 日前

あらすじ
六年前、小学生の伊藤忠司は、いじめっ子の黒田煌太にゲーム機を奪われた少女を助けるため、町外れの空き家へ忍び込む。しかしその後、忠司はクラスで泥棒扱いされ、さらに煌太が血を流して倒れる記憶を最後に、強いストレスから記憶を失ってしまう。
高校生になった忠司は、親友の斉藤亮とともに、町の小さな喫茶店「喫茶レトロ」に通う日々を送っていた。明るく人助けのできる少年に成長した忠司だったが、両親のことも、六年前に自分の身に何が起きたのかも、いまだ思い出せないままでいる。
そんなある日、忠司の忘れ物のバッグに、見覚えのないゲーム機と、自分を隠し撮りした写真が紛れ込んでいた。それをきっかけに、忠司の中で途切れていた記憶が少しずつよみがえり始める。
写真を撮ったのは誰なのか。ゲーム機はなぜ忠司のもとに戻ってきたのか。そして、六年前に行方不明になった少年・黒田煌太は、本当に死んだのか。
忠司は亮、そして喫茶レトロの常連である上田あすかとともに、過去の真相を追い始める。だが、記憶を取り戻そうとするほど、忠司は自分自身の知らない過去と向き合うことになる。
喫茶レトロに集まる人々が抱える秘密。六年前の事件に隠された痛み。そして、誰かを守ろうとした少年の本当の想い。
失われた記憶の先にある真実は、忠司たちをもう一度、過去と未来の分かれ道へと導いていく。
本編スタート
◯町・外観
国道に横断歩道と歩道橋。電球式の信号機の青信号が点滅。通り過ぎる消防車。
緑が広がる公園に時計台と噴水。
〇同・伊藤忠司の家・外観
家に駆け込むT「伊藤忠司(11)」。
忠司「ただいまー」
すぐバックを背負い玄関から飛び出す。
忠司「行ってきまーす」
泰子「待ちなさい忠司! 宿題は?」
玄関から顔を出すT「伊藤泰子(37)」。
忠司「ごめん母さん、急いでるから!」
泰子「もう。遅くなるなら携帯で連絡ね」
忠司「了解!」
敬礼し走り去る。泰子、笑顔で見送る。
〇同・公園
公園で遊ぶ子供たち。
◯同・同・ベンチ
長い前髪にメガネ、首からカメラをぶら下げた少女がゲームをしている。
ゲーム機本体にキャラクターのシール。そこへ背の高く長袖のタートルネックを
着た少年、T「黒田煌太(11)」。
煌太「おい」
少女「……」
煌太「おい! 聞いてんのか?」
少女、煌太を見上げる。
煌太「へー、良いもん持ってんじゃん」
ゲームの画面を覗き込む。
少女、ゲーム機を体の後ろに隠す。
煌太ゲーム機を取り上げる。
少女「ダメ!」
ゲームを取り返そうとするも煌太に押し倒されベンチから落ちる。
煌太「また学校でいじめられたくなかったら誰にも言うなよ」
煌太、公園から出ていく。忠司、公園から出ていく煌太を見つける。
公園内に地面に倒れた少女を発見。忠司、携帯で時間を確認するがしまい駆け寄る。
忠司「おい、大丈夫か?」
少女、忠司をみて頷く。忠司、手を貸してベンチに座らせる。

忠司「また煌太か?」
少女、頷く。
忠司「今度は何やられたんだ?」
少女、話そうとするも躊躇し口ごもる。
忠司「大丈夫、言ってみ」
腰を落とし目線を合わせる。
少女「ゲーム……取られちゃった。パパが買ってくれたのに」
忠司「なんで公園でゲームしてんだよ」
少女「だって……」
黙り込む。忠司、立ち上がる。
忠司「よし! 取り返すか」
少女「誰かに言ったらもっといじめるって」
忠司「バレなきゃ良いんだろ?」
少女「でも……」
忠司「いいから帰っとけ。どうせまたあそこだろ」
少女をおいて公園出口へ走っていくが一度止まって振り返る。
忠司「なあ!」
少女、顔をあげ忠司を見る。
忠司「お前も思ってることは、はっきり言えるようになれよ。じゃないと舐められたままだぜ」
少女「……うん」
忠司「今すぐは無理か、まずは見た目からだな。メガネ外すとかさ」
少女「……その方が似合う?」
忠司「えっ、あー、うん。……じゃあな」
忠司、再び公園の出口へ走る。
忠司「似合う似合わないじゃないんだけどな」
少女、その姿をカメラで撮る。
◯同・空き家
忠司、木に囲まれた空き家に到着し南京錠が付いた入り口を素通り。
立ち入り禁止と書かれた柵を飛び越え、小石をポケットに入れ2階の
窓にかけられた梯子に登る。
◯同・同・2階
窓から明かりが差し込む薄暗い部屋で煌太、半袖シャツを着た小学生2人が
ソファに座って話す。
煌太「じゃーん!」
2人にゲーム機を見せる。
小学生1&2「おおー」
小学生1「もう買ってもらったのかよ?」
煌太「……まあな」
小学生2「うちの親なんかケチでよ」
忠司、窓の外の梯子から会話を聞く
忠司「あれか」
ポケットから小石を取り出して部屋のドアに向かって投げつけ
「コツン」と音が鳴る。
煌太「ん? なんだ?」
小学生1「やばい! 誰かきた?」
小学生2「いや、一階からは入れないはず」
部屋の入り口のドアを開け階段の方を覗く3人。忠司、窓から2階に入り
ソファに置かれたゲーム機をバックに入れ、再び梯子で下に降りようとする。
◯同・忠司の友達の家
忠司の友達1「遅いな、忠司」
忠司の友達2「電話するか」
携帯を取り出し忠司に電話をかける。
◯同・空き家・2階
梯子に足をかけたところで忠司の携帯が鳴る。
忠司、ポケットからキッズ携帯を取り出し着信を切る。
煌太、着信音に気づき後ろを振り返る。
煌太「忠司?」
忠司「やべっ!」
携帯を窓の中へ落とすがそのまま梯子を降りる。
煌太、ふとソファに目をやりゲーム機がないことに気がつく。
煌太「やられた!」
忠司、梯子を外し走り去る。煌太、窓から下を見て梯子が外されたことに気づく。
小学生1、窓際に移動する時に忠司が落とした携帯を踏んで転倒。
携帯はソファの下へ入る。
◯同・国道
忠司、国道沿いの歩道を走る
◯同・町外れの空き家
2階の窓から木に乗り移る煌太達。
◯同・国道・横断歩道
忠司、息を切らしながら横断歩道にたどり着き信号のボタンを連打。
3人が追いかけてくるのが見える。
煌太「逃げられると思うなよ!」
忠司「捕まったらやばそう。そもそも顔がバレた時点でアウトか」
歩道橋を登り始める。そのタイミングで車道側の信号が黄色に。
煌太、歩道橋を登り、残り2人に横断歩道を渡るよう指示。
忠司、歩道橋の反対側の階段を降りようとすると回り込んだ2人が
階段下にみえ引き返そうとするが、そこに煌太がおり挟み撃ちになる。

煌太「ここまでか……」
忠司、歩道橋の上で3人に囲まれる。
◯タイトルロゴ『喫茶レトロ〜記憶の断片〜』
◯同・同・同
T『六年後』
横断歩道のLED式の青信号。杖をついたお婆さんと、荷物を持って横断歩道を
渡る学生服のT『伊藤忠司(17)』。横断歩道を渡り切る。
お婆さん「ありがとね」
忠司「お家まで持ちますよ?」
お婆さん「近くだから大丈夫よ」
忠司「そうですか、お気をつけて」
荷物をお婆さんに返して見送りスマホを取り出し時間を確認する。
忠司「やばっ!」
引き返そうとするも赤信号に気づき歩道橋を駆け上る。
サイレンを鳴らした消防車が下を通り過ぎる
◯同・忠司の家
忠司、自宅に駆け込みまた外へ出てくる。伊藤泰子(43)が顔を出す。
泰子「忠司、出かけるの?」
忠司「はい。友達と勉強しに。遅くなる時は連絡しますね」
泰子「分かった。行ってらっしゃい」
泰子、暗い表情で見送る。
◯同・喫茶レトロ・外観
建物に『喫茶レトロ』と書かれた小さい看板と5周年のポップ。

◯同・同・店内
レトロな雰囲気の店内。口髭を生やしアロハシャツを着た店のマスター(40)が
歌を口ずさみながらコーヒーを淹れる。
バイトのT「山田佳奈(17)」がコーヒーをお客さんのテーブルへ運ぶ。
パフェが置かれたテーブルに座る黒髪に整った顔立ちの制服姿の女子高生、
T「上田あすか(17)」が本を読む。少し離れたテーブルに学生服を着崩した
見た目のチャラい茶髪の男子高校生、T「斉藤亮(17)」が
メロンソーダを飲み携帯を見る。
忠司、店内に入ってくる。

マスター「いらっしゃい。ってなんだ忠司か」
忠司「なんだはないでしょ。亮は?」
マスター「チャラ男ならとっくに」
マスター、奥の席を指差す。忠司、席へ向かって歩き出す。
マスター「注文」
忠司「いつもの」
忠司、途中で食器を下げている、背が高くパンダの被りものをした店員と道を
譲り合い、数秒見つめあってからすれ違い席に着く。
あすか、その姿を本越しに見つめる。亮、忠司に気がつく。
亮「よ」
忠司「悪い! 待たせた」
手を合わせて謝る
亮「まあ座れ。で、今日の言い訳は?」
忠司、席につく。
忠司「え? 迷子を交番に届けて、その帰りに公園の捨て猫に餌をやって。
で、公園から出たらお婆さんが」
亮「もういい。毎回ベタな話ししやがって」
亮、メロンソーダを飲む。
忠司「本当なんだって!」
亮「分かってる。長い付き合いだろ? いい加減俺みたい楽に生きたら?」
忠司「誰がお前みたいなチャラ男に」
忠司、置かれたコップの水を飲む。
亮「それ飲みかけ」
忠司「うぇっ!」
水を吐き出す忠司。佳奈が席にくる。
佳奈「アイスコーヒーです。ブラックでよろしかったでしょうか?」
忠司「あ、はい」
テーブルを拭きながら答える。
亮「ブラックなんかよく飲めるな」
忠司「……飲みづらいから良いの」
亮「どゆこと?」
忠司「良いから、さっさと試験勉強」
亮「はいはい。あーどうせなら男子の憧れ上田さんから教わりたい」
忠司「上田あすか……ね」
奥の席にいるあすかを見てヒソヒソと話し始める二人。

忠司「何で毎日いるんだ?」
亮「もしかして俺に」
忠司「それはない」
忠司、バックからノートを取り出す。
亮「まだ何も言ってないだろ。つーかかあのパンダは何者?」
別のテーブルへコーヒを届けるパンダ。
忠司「店員」
亮「いや、なんであんな被り物してんのかって話」
忠司「気になるなら直接聞いてこい」
亮「聞いたよ」
忠司「聞いたのかよ」
亮「けどあいつ一言も喋らねぇんだよ」
忠司「俺も声聞いたことないな」
亮「だろ、絶対なんかあるぜ。もしかしたらあいつ」
忠司「それはない」
亮「いやまだ何も」
忠司「良いから勉強」
亮「へいへい」
× × ×
勉強を続ける二人。
× × ×
時計は21時。亮の携帯が鳴り画面に『母ちゃん』。嫌な顔をし電話に出る。
亮「もしもし」
亮の母の声「あんたこんな時間まで何してんの!」
亮、声量に携帯から耳を離す。
亮「忠司と勉強してから帰るって言ったろ……え、いや本当だって!」
亮、忠司に携帯を渡す。
忠司「えっ?」
亮、手を合わせて忠司に頭を下げる。
忠司「ったく。こんばんは伊藤です。……はい。ちゃんと勉強してますよ。……はい。
もう帰ります。はい、では」
通話を切って亮に携帯を返す。
亮「サンキュー。にしてもなんで実の息子を信じないかね」
忠司「日頃の行いだろ。仲が良くて良いじゃない」
勉強道具を片付け始める二人。
亮「仲良く見えんなら病院紹介するぜ。……まだ親と上手くいってないの?」
亮、手を止めて忠司をみる。
忠司「上手くいってる。けど」
亮「けど?」
忠司「どうしてもまだ他人に感じるというか」
亮「記憶喪失だっけ?」
忠司「……ああ」
◯(回想)・病院・診察室
T『6年前』
病院の診察室で頭に包帯を巻いた状態で座る忠司(11)。
後ろに立つ泰子(37)と伊藤敬(38)。
三人の正面の椅子に座りモニターを見る医者。
医者「解離性健忘ですね」
泰子「かっ、かいりせい?」
医者「いわゆる記憶喪失。ただ脳に
損傷もみられないので一過性かと」
敬「つまり記憶は戻ると?」
医者「絶対とは言い切れませんが」
泰子「私たちのことも思い出せない?」
泰子、忠司の肩を掴む。
医者「そう焦らずに。精神的なストレスやトラウマが原因と考えられます。何か心当たり は?」
泰子「学校でトラブルを抱えてたみたいですが、この子何も言わないので」
医者「少し環境を変えて安静にしてみるのも良いかもしれませんね」
◯(戻って)町・喫茶店・店内
忠司「カウンセリングとか転校とか試したけど、両親のこともまだ……」
沈黙の後、亮ため息をつく。
亮「お前さ、設定までベタだな」
忠司「設定じゃねーって」
亮「良いじゃん。その転校先で幸運にも俺に会えたんだから」
忠司「どうだか」
亮「照れちゃって。さ、帰ろうぜ」
会計を終え帰ろうとする二人。
佳奈「これ、昨日の忘れ物です」
忠司、バックを受け取る。
忠司「あっ! ありがとうございます」
亮「何のバック?」
忠司「体操着。ここにあったのか」
亮「忠司のってよく分かりましたね?」
佳奈「いつもの席にあったので」
忠司「助かりました。じゃあマスターまた」
マスター「はいよ」
忠司、亮店を出る。あすか、その様子を奥の席で見つめ本を閉じる。
◯同・同・外観(夜)
忠司、亮、外に出てくる。バンダの店員、外の掃除をしている。
亮「お! チャンス」
亮、背後からパンダの被り物を取ろうとする。
パンダの店員、首筋まで上がったところで手で押さえ被り直す。
パンダの店員の首筋に火傷のようなアザ。
亮「惜しい。もうちょい」
忠司「やめろって。すいません大丈夫ですか?」
忠司、亮をひっぱり引き離す。パンダの店員、大丈夫とジェスチャーを送る。
亮「いつかその顔みせてもらうからな!」
忠司、会釈をして亮と帰っていく。その姿を見つめるパンダの店員。
◯同・忠司の家・玄関(夜)
靴を脱ぐ。そこへ泰子やってくる。
泰子「おかえりなさい」
忠司「ただいまです」
泰子「ご飯食べる?」
忠司「食べます。荷物置いたら行きますね」
忠司、玄関に上がり部屋に向かう。
◯同・同・忠司の部屋
電気をつけ荷物を置き一旦ベッドに寝る。そして体操着のバックを見つめる。
忠司「洗わないと」
立ち上がり、バックを開くと見覚えのないケースが混じっている。
忠司「何だ?」
ケースを開けると数十枚の写真とゲーム機が入っていた。写真を手に取る。
忠司「えっ? 俺?」
写真には喫茶店にいる忠司。他の写真も忠司が写る。今度はゲーム機を持つ。
忠司「これって」
ゲーム機を裏返すとキャラクターのシールが貼られている。
それをみた瞬間目眩がし頭を抑えて座り込む忠司。
× × ×
フラッシュ。六年前の空き家でゲームをしている黒田煌太の横顔と
公園にいる少女の顔
× × ×
『コンコン』とノックの音が響き渡る。
目眩が治りドアを見る。
泰子「忠司―ご飯は?」
ドア越しに泰子の声
忠司「はい、今行きます」
去っていく泰子の足跡。
忠司「今のは黒田煌太? それと……」
◯同・喫茶店・外観
◯同・同・店内
席に座っている忠司と亮。
亮「どうした? 休みに呼び出して」
亮、パフェを食べる。
忠司「思い出したんだよ」
亮「お前に貸してた千円?」
忠司「借りてない」
亮「じゃあ何?」
忠司「六年前の記憶」
亮「えっ! じゃあ全部思い出したのか!?」
大きな声に気付き二人をみるあすか。
店内にいるマスター、パンダの店員も二人を一瞬見る。
忠司「いや、黒田煌太っていう同級生がいたことだけ」
亮「それだけ?」
忠司「それだけ」
亮「何だよ。……でも良かったな」
忠司「ああ」
亮「もっと喜べよ。でもなんで?」
忠司「昨日帰りにバック受け取ったろ? その中にこれが」
ゲーム機を取り出しテーブルに置く。
亮「なに? 最近ハマってんの?」
忠司「俺のじゃない。でもこれを見た瞬間に記憶が戻ったんだ」
亮「へー。じゃあこれ黒田煌太のか?」
忠司「多分」
亮「記憶取り戻すならそいつに会うのが一番じゃねぇか?」
忠司「だよな」
亮「てか、なんでバックに?」
忠司「あっ! これも入ってたんだ」
写真を取り出す。
亮「忠司の写真?」
忠司「よく見てみ」
亮「えっこわっ! 全部この店の中じゃん」
忠司「だろ? つまりこのゲームが黒田煌太のものなら」
亮「この写真も黒田煌太が?」
忠司「おそらく」
亮「どこだ黒田煌太?」
店内を見渡す二人。その視界に歩いてくる制服姿のあすか。
あすか「黒田煌太って言った?」
亮「え? あ、はい」
あすか、ゲーム機と写真を見る。
あすか「これは?」
忠司「え? これは……」
あすか「いいから早く答えて」
忠司・亮「はい……」
× × ×
席についたあすかに事情を説明する
× × ×
あすか「忘れ物……」
小さい声で呟く
亮「あのーそろそろ説明してもらっても?」
あすか「え? 何を?」
忠司「何で急に話に入ってきた?」
あすか「ああ。黒田煌太を探してるんでしょ? 結論から言うと黒田煌太はもう死んだ」
忠司・亮「えっ!」
あすか「私の友達の友達の友達から聞いた話だから間違いない」
亮「友達の友達の友達って……他人では?」
あすか、亮を睨みつける。
亮「すいません」
あすか「聞き覚えのある名前が聞こえたから話を聞いただけ」
忠司「で黒田煌太はいつ死んだんだ?」
あすか「六年前。正確には行方不明だけど」
忠司「俺の記憶喪失と同じタイミング?」
あすか「六年前だから知り合いの間ではもう死んだって噂」
亮「どんなやつだったんですか?」
忠司「何で敬語?」
あすか「いじめっ子よ。お前のものは俺のものみたいな」
忠司「いじめっ子……」
忠司、ゲーム機を見つめる。
亮「え? じゃあ誰がバックにこれを?」
あすか「さあ? 私は読書の続きがあるからこれで」
あすか、立ちあがろうとする。
忠司「ちょっと待って。良かったら手伝ってくれない?」
あすか「何を?」
忠司「黒田煌太探し」
あすか「聞いてた? あいつは死んだの」
忠司「でも確証はない」
あすか「……そうだけど」
忠司「上田さんの友達の話も気になるけど、
黒田煌太を追うのが記憶を取り戻す鍵になると思う」
亮「友達の友達の友達ね」
あすか、亮を睨む。亮、目をそらす。
あすか「……少しなら」
忠司「ありがとう。助かる」
亮「よーし。で、何から始める?」
忠司「やっぱこのゲームと写真を誰がバックに入れたか。かな?」
亮「なら一番可能性あんのはバック渡してくれた店員?」
マスターのもとへ向かう三人。
マスター「ん? どうした? 珍しいな」
あすか「お父さん、山田さんは?」
忠司・亮「お父さん!?」
マスター「ん? 知らなかったのか? そっくりだろ」
忠司・亮「いや全く」
マスター「そうか? まあ、あすかは天国のママ似だな」
あすか「どうでも良いけど、山田さんは?」
マスター「佳奈ちゃん? そろそろ来る時間だけど? 何か聞いてる?」
パンダの店員に話を振るが、首を横に振る。そこへやってくる佳奈。
佳奈「おはようございます」
マスター「ナイスタイミング」
あすか「山田さん。これに見覚えは?」
佳奈に写真とゲーム機が入っていたケースを見せる忠司。
佳奈「えっ、ああそれなら店に落ちてて、忠司君の写真が入ってたから、バックと一緒に返そうと思って。……まずかったです?」
亮「てことはケースは意図的に入れたわけじゃないってこと」
あすか「そういうことね」
忠司「どこに落ちてました?」
三人を奥の通路に案内する佳奈。
佳奈「ちょうどこの辺り」
あすか「トイレに行く時に落としたのかしら?」
忠司、入り口の方を見る。
マスター「ほらほら。お客さん増えてきたからそろそろ佳奈ちゃん解放して」
佳奈「急いで準備しますね」
軽くお辞儀をしてその場から去る。
亮「振り出しか。どうする?」
忠司「……薄暗い部屋と公園」
亮「何それ?」
忠司「薄暗い部屋にいる黒田煌太と一緒に眼鏡をかけた女の子が公園にいたことも思い出したんだ」
あすか「公園の女の子……。その場所は?」
忠司「薄暗い部屋は分からない、公園は多分あの時計台と噴水がある公園」
亮「あの公園か。ガキの頃よく行ってたな。何か思い出すかもだし行くか?」
◯同・国道・横断歩道
歩いて信号を渡る三人。
亮「いやー。上田さんと親しくなれるなんて光栄だな」
あすか「いつ誰が誰と親しくなったって?」
亮「え? こうして仲良く喋ってるじゃないで
すか?」
忠司「上田さん何で休みなのに制服?」
あすか「……これが一番落ち着くの」
小さい声で答える
亮「えー。私服も見てみたいなー」
あすか「黙れチャラ男」
亮「なんか俺に厳しくないっすか?」
◯同・公園・ベンチ
忠司「間違いない。俺はここでその子に会ってる」
亮「その子も同級生だろ? 見た目は?」
忠司「前髪長くて眼鏡もしてたから顔が思い出せないんだけど、カメラを首から下げてたな」
亮「それだけだと流石になー」
三人の後ろから派手な私服を着た坂口真希(17)が話しかけてくる。
真希「もしかして上田さん?」
あすか、真希の顔を見て気まずそうな顔をする。
真希「やっぱりそうだ! 面影あったから話しかけちゃった。小学校以来? 元気? ってかめっちゃ美人になったね」
圧倒される三人。
亮「えっと。……上田さんのお友達?」
真希「友達友達! 小学校が一緒だったの」
あすか「久しぶりね坂口真希さん」
真希「うん。ってか何でフルネーム? うける! なんかエモいね。小学校の頃は色々あったけど楽しかったな。……またみんなで集まれると良いよね」
一瞬暗い表情になる。
あすか「そうね」
真希「あっごめん待ち合わせあるんだった」
女、去り際に忠司をみる。
真希「ん? 君どこかで……」
あすか「急いでるんじゃないの?」
真希「そうだった! じゃあね」
女、歩いて出口へ去っていく。
亮「まさか今のが眼鏡の少女?」
忠司「いや記憶と違い過ぎる」
あすか「そう? 見た目なんて六年あれば変わるものよ。特に女子は」
亮「で何か思い出した?」
忠司「いやさっぱり。付き合わせたのに悪い」
亮「まあ、焦ることないだろ」
◯同・同・出口
真希「あっ」
立ち止まり携帯を開く。
真希「佳奈から送られてきた写真、誰かに似てるって思ったけど」
携帯のトーク画面、山田佳奈の名前。T「ついに撮れた!」というメッセージと少し暗い部屋に立っている男の全身と横顔の写真。
真希「そんなわけないか」
携帯を閉じて再び歩き出す。
◯同・国道
公園から帰り道を歩く三人
亮「そういえば最近火事があったらしいぜ」
忠司「それが?」
亮「いや、どうやら原因は携帯らしくて」
あすか「ああ、リチウム電池」
忠司「リチウム電池?」
あすか「悪い環境で放置すると、携帯の電池が発火することがあるの」
亮「勉強になったか?」
忠司「テレビで見ただけだろ」
亮「バレた? まあ、幸い何年も放置された町はずれの空き家で被害者はいないって」
あすか「じゃあ、なんで携帯が?」
亮「確かに」
忠司、立ち止まる。
忠司「町はずれの空き家?」
二人を置いて走り出す。
亮「忠司? どうした。おい、待てよ!」
追いかける二人。
◯同・町はずれの空き家・外観
木に囲まれた空き家に到着する三人。
2階窓部分から少し焦げていることが分かる程度で十分に原型を保っている。
あすか「ここって」
亮「どうした急に?」
忠司「火事の現場ってここだろ?」
亮「ん? ああ、確かに燃えた跡があるな。でもなんで?」
忠司「昔よくここに来てたはずなんだ」
ドアが開き、オーナーの男が現れる。
オーナー「なんだ君たち? また野次馬か?」
忠司「いえ、僕たちは別に」
亮「おじさんこそ、誰です?」
オーナー「ここのオーナー。参ったよ。まあ
こんな物件じゃ借り手も見つからないし、いっそ解体しようかな」
玄関に南京錠をかける。
亮「なんで南京錠なんかしてんすか?」
オーナー「ああ、ドアの鍵が壊れてるんだよ。借り手が見つかれば直すつもりだったけどここ数年は内見も一件。しかもこんな町外れで喫茶店を開きたいっていう変わりもの」
あすか「喫茶店?」
オーナー「こんな場所で開いてもねえ」
忠司「中って見せてもらえないですか?」
◯同・同・二階
二階に向かう階段を登る四人
亮「一階は普通でしたね?」
オーナー「燃えたのは2階だけだからね」
二階につきドアを開くと薄暗い部屋に窓からの光。黒焦げになったソファ。
亮「うわ、ひでえ匂い」
充満した火事の後の匂いに鼻をつまむ。
忠司「この部屋……」
オーナー「ソファの下にあった携帯が出火原因。一体誰がこんなところに携帯落としたんだか」
亮「え? オーナーさんのじゃなくて?」
オーナー「違うよ。ほらこれがその携帯」
燃えて変形したキッズ携帯を取り出す。
あすか「キッズ携帯?」
オーナー「そ。子供が入ってきたことあったかな?」
忠司、キッズ携帯を見つめる。
忠司「それ、見せてもらっても?」
オーナー「別に」
忠司、恐る恐る携帯を受け取る。その瞬間目眩がしその場に座り込む。
亮「忠司!?」
× × ×
フラッシュ。六年前の小学校の教室で
クラスメイト数名から「泥棒」と連呼される忠司。そこにいる少し不安げな煌太と俯く前髪の長い少女。
× × ×
× × ×
フラッシュ。町はずれの空き家の外でで倒れてる煌太と血がついた忠司の手。
× × ×
亮「忠司! おい忠司!」
亮、背中を支える。忠司、意識が戻るが呼吸が荒く小刻みに震え出す。
忠司「まさか俺が黒田煌太を? そんな……」
倒れて意識を失う。
◯同・病院・病室(夜)
外が暗くなった病室のベッドに横たわる忠司。泰子、椅子に座っている。
忠司「……ん」
目を覚ます。
泰子「忠司! よかった」
安堵の表情を浮かべる。
忠司「……ここは?」
泰子「病院。気を失って運ばれたの」
忠司「そうですか。心配かけてすいません」
泰子「……。先生呼んでくるわね!」
悲しそうな表情を浮かべた後、明るく振るまい部屋から出ていく。
亮、会釈をして入れ違いに入ってくる。
亮「よ。大丈夫か?」
忠司「おう、いたのか」
上半身を起こす。
亮「健気に待ってた親友にそれはないだろ。それより……いつもあんな感じ?」
忠司「何が?」
亮「何がって……。流石に他人行儀過ぎねーか?」
忠司「……どう接していいか分からない」
亮「難しく考えすぎじゃね?」
忠司「じゃあお前はすぐ受け入れられんのかよ! 記憶にない人からいきなり親だって言われたことないだろ」
亮「ごめん。無神経だった。……でもどうし
た? お前らしくないぞ?」
忠司「俺らしいってなんだ? 昔の自分がどんな奴だったかすら自分で分からねえんだぞ?」
亮「忠司……」
忠司「黒田煌太は……俺が殺したかも」
亮「はあ!?」
忠司「思い出したんだ。あの2階の部屋が、黒田煌太がいた部屋だ」
亮「ってことは携帯も黒田煌太の?」
忠司「分からない。でもあのゲームの本当の持ち主は眼鏡の女の子」
亮「本当の持ち主?」
忠司「言ってたろ。黒田煌太はいじめっ子だって」
亮「えっ、てことは黒田煌太がその子のゲームを奪った?」
忠司、頷く。
忠司「俺は昔その子のゲームを取り返すために空き家に行った。あそこは2階から侵入できて秘密基地みたいになってた」
亮「で? 取り返せたのか?」
忠司「いや、結局失敗して次の日学校行ったら……俺はゲームを盗もうとした泥棒扱いされてた」
亮「お前は取り返そうとしただけ! 何で本当のこと言わないんだよ」
忠司「言えなかったんだ。女の子が俺に助けを求めたことがバレたら、もっといじめられるって。小学生だったし、どうしていいか分からなかった」
亮、壁を叩く。
亮「納得いかねー」
忠司「その日から皆に無視されるようになって、精神的にかなり苦しかった。そしてもう一つ思い出したのが……黒田煌太が空き家の外で血を流して倒れていたこと」
亮、驚く。
亮「……それで自分が殺したかもって?」
忠司、頷く。
忠司「恨みがあったのも、無視されて精神的におかしくなってたのも事実だし状況から考えて」
亮「でもお前に限って」
忠司「だから分かんないだろ! 記憶を無くす前の俺がどんなやつかなんて!」
亮「バカかお前! 記憶がなくたって忠司は忠司だろ。ずっと一緒にいた俺が一番よく分かってる。いつも誰かのために馬鹿みたいに世話焼いてたろ。昔だってその女の子のために動いてんだったらよ、お前の根っこの部分は何も変わっちゃいねぇよ!」
忠司「でも……」
亮「でもじゃねぇ! お前は……伊藤
忠司は今も昔もこれからも! 人を殺したりなんかする弱い男じゃねえ」
忠司、涙が溢れ俯きしばらく沈黙
忠司「亮……俺、本当にやってない?」
亮「安心しろ。俺が保証する」
忠司「そうか。ありがとう……」
忠司、小さい声で涙ながらに呟く。
◯同・喫茶店・外観
外の掃除をするパンダの店員。
◯同・喫茶店・店内
制服の忠司、亮、席に。店内にマスター、佳奈。
亮「体はもう大丈夫か?」
亮、いちごパフェを食べる。忠司アイスコーヒーを飲む。
テーブルの上にはゲーム機と写真。
忠司「ああ、迷惑かけたな」
亮「今日、上田さんいないな」
亮、店内を見渡す。
忠司「だな」
亮「なんだよ。ちょっとは気にしろよ。上田さんも心配してたぞ」
亮、ゲームを持ちスイッチを入れる。
忠司「上田あすか……なあ、ちょっとあいつのことで」
亮「えっ!? どういうこと?」
亮、ゲーム画面を見て驚いた表情。
亮「名前のとこよくみてみろ」
忠司、ゲームのステータス画面を見る。画面に『あすか』の文字
忠司「……やっぱり」
亮「え?」
忠司「ここに出入りしている人物であすかなら間違いなく上田あすか」
亮「なら眼鏡の女の子も上田さん?」
忠司「あとこれ。全部同じ角度から撮られてる。ちょうどこのケースが落ちてたって場所から」
忠司、写真を見せる。
亮「本当だ!」
忠司「で、いつもあいつが座っている席」
あすかがいつも座っている席を指差す。
亮「偶然……はないな。でも何で昔のこと黙ってんだ?」
忠司「さあ? 直接聞くか」
立ち上がる忠司。
亮「あ、その前に一個確認」
忠司、亮、マスターのところへ行く。
マスター「お、どうした。またなんか用か?」
亮「マスター……娘さんを僕にください!」
忠司「は!?」
マスター「誰がお前みたいなチャラ男に可愛い娘をやるか」
亮「その気持ち分かります。あんな可愛い女性は世界中見渡してもなかなか」
マスター「おーよく分かってるじゃない少年」
亮「きっと小さい頃から可愛かったんだろうなー。昔の写真とかないんですか?」
マスター「あすかは昔から可愛かったぞー。特別に昔の写真を見せてやろう」
携帯を取り出しスワイプしながら写真を見せる。
そこには小学生の頃の前髪が長く眼鏡をかけたあすか。
一枚だけ昔の黒田煌太らしき後ろ姿が混じる。当時の印象より少し体が大きい。
忠司「ん?」
亮「忠司、どうだ?」
忠司「あっ、ああ、間違いない記憶通り」
小声で話す二人。
マスター「あすかはママに似て大人しいけど、嫉妬深くてな。まあそこが可愛いんだけど」
亮「眼鏡?」
マスター「ああ、昔からゲームとか本ばっかでな。今はコンタクト」
亮「へー、ちなみに奥さんとはどこで?」
マスター「良くぞ聞いてくれた! ママは同級生で皆の憧れ。けど俺とは運命で結ばれててな、どこ行っても偶然出会うんだ。一番驚いたのは、爺さんの墓参りでバッタリ会った時だな。そんなんが三ヶ月ぐらい毎日続いたからこれは運命だ、と思って俺の方から告白したんだ」
忠司「墓参り?」
亮「毎日? いやそれただのストーカー」
マスター「ん? 何か言ったか?」
亮「いえ」
マスター「とにかく、娘はやらんぞー」
コーヒを入れながら二人を追い払う。
◯同・喫茶店・外観
忠司、亮、二人で外に出てくる。
亮「眼鏡の少女は上田さんで確定。でも、なんで黙ってたんだ?」
忠司「本人に直接聞くしかないだろ」
二人の目の前にパンダの店員。小さい子供に風船を渡す。隣に母親の姿。
子供の母親「ありがとうございます。ほらコウちゃんもありがとうは?」
コウちゃん「ありがとう」
パンダの店員、親子に手を振り見送る。
亮「何やってんだ。やっぱ怪しい」
忠司「風船渡してるだけだろ」
亮「いやだからなんで?」
忠司「良いから行こうぜ」
パンダの店員、立ち去る二人を見つめる。影から店を覗くスーツの男が二人。
◯同・公園・ベンチ
あすか、制服でベンチに座っている。
あすか「お父さん……あの日何してたの?」
あすかの携帯が鳴り画面を見る。画面に伊藤忠司の文字。
驚いて携帯を落としそうになる。
あすか「えっ? えっ? 何」
深呼吸をして通話ボタンを押す。
あすか「……もしもし?」
亮の声「あ、上田さん? 俺俺、亮だけど」
あすか、通話を切る。すぐに着信が鳴り通話ボタンを押す。
亮「何で切っちゃうのよ」
あすか「ごめんなさい、電波が悪くて。……で、なんであなたが?」
亮「いや、あいつ今トイレ行ってて代わりにかけてんの。俺の携帯からかけても繋がらないんだよ」
あすか「……気のせいよ。で要件は?」
× × ×
数分後。あすかのいる公園のベンチに到着する忠司、亮。
× × ×
ベンチの前に立つ三人。
あすか「話したいことって?」
忠司「なんで黙ってた? 同級生だったんだろ?」
あすか、驚いて振り返り忠司をみる。
あすか「私のこと思い出してくれたの!?」
忠司「いや、これが眼鏡の女の子のものってことは思い出した。その子が君だってことはマスターから見せてもらった昔の写真で分かった」
忠司、ゲームをあすかへ返す。
あすか「そう……。じゃあ全部思い出したわけじゃ」
忠司「でももう一つ、あの空き家にゲームを取り返しに行ったことも思い出した。それで、取り返すのに失敗して次の日クラスで……」
あすか「ごめんなさい! 私あの時本当のこと言う勇気がなくて……」
あすか、頭を下げて声を絞り出す。
忠司「謝って欲しいわけじゃない。俺が勝手に助けようとして勝手に失敗しただけ」
あすか「勝手にって……。私は嬉しかった。あなたが助けてくれて」
あすか、俯き沈黙が続く。
亮「あのー。そもそも何で同級生だったこと黙ってたの?」
あすか「いや、その、自然と思い出して欲しかったというかなんというか」
照れながら、徐々に小さい声になる。
亮「この写真は?」
あすか「え、写真? あーこれは、そう! クラスの友達に頼まれたの。ほら伊藤君結構女子に人気あるから」
亮「え、まじ? 俺の写真は頼まれてない?」
あすか「バカで助かるわ……」
小さな声で呟く。
亮「ん? 何て?」
あすか「ううん、何も」
忠司「そういえばそのゲーム。あの日取り返せなかったのにどうやって?」
あすか「……そのことだけど実はあいつが行方不明になった前の日」
◯回想・あすかの家(夜)
六年前。祭壇のあるリビングで本を読むあすか(11)。
「ガチャ」と音がして玄関に向かうあすか。
あすか「パパ、おかえり」
マスター「あれ、起きてたの? 寝てて良いって言ったのに」
あすかの頭を撫でリビングに向かう。リビングで上着を椅子にかける。
マスター「風呂入ってくるからもうお部屋で寝なさいね」
風呂場へ向かう。
あすか「うん」
部屋に向かう途中椅子にかけた上着が床に落ちる。あすか気づいて拾うと、ポケットに大きな膨らみを感じる。
あすか「ん?」
ポケットに入っているものを取り出すとゲーム機が出てくる。
あすか「え? パパ取り返してくれたの?」
上着を椅子にかけ、ゲームを持ち部屋に向かう。
◯(戻って)町・公園・ベンチ
あすか「あいつにいじめられてること相談した直後だったから、お父さんが取り返してくれたんだってあの時は思ってた。でも次の日からあいつがいなくなって。それからこの前空き家に行った時、オーナーが言ってたでしょ?」
× × ×
フラッシュ。
オーナー「ここ数年は内見も一件。しかもこんな町外れで喫茶店を開きたいっていう変わりもの」
× × ×
あすか「喫茶レトロは5年前にオープン。六年前なら内見に行ってても……」
忠司「マスターがあの空き家に?」
亮「え? じゃあ忠司が思い出した空き家で倒れてた黒田煌太ってまさか」
忠司「おい!」
亮「あ、ごめん」
あすか「あいつがあの空き家で倒れてた? えっ? ……じゃあやっぱりお父さんが?」
あすか、膝から崩れ落ちゲームを地面に落とす。
亮「まだそうと決まったわけじゃ……」
あすか「私のせいだ。相談なんかしたから。私が弱かったから!」
亮「いじめてる奴の方が悪いに決まってんだろ。……本当にマスターが? あーもうどうなってんだ!」
忠司、あすかに近づき腰を落とす。
忠司「……なあ。可能性だけで悩むのはやめないか?」
あすか、俯いたまま話を聞く。
忠司「俺も目の前で血を流して倒れた黒田煌太を思い出した時、もしかして俺がやったのかって思った」
あすか「あなたがそんなことするはずない!」
あすか、顔を上げ怒る。
忠司「ありがとう。でも本当のことは分からない。今でも正直怖い。ただ……自分が知らない過去の自分まで信じてくれる人がいるってことは分かった」
涙目のあすか、照れくさそうな亮の顔。
◯同・忠司の家
洗濯した忠司の体操着を干す泰子。
◯同・公園・ベンチ
忠司「過去の自分を知るのは怖い。けど、今の自分を信じてくれる人がいる。だから信じてみようと思う。過去の自分のことも」
あすか「でも……」
あすか、俯く。
忠司「信じてるだろ? お父さんのこと」
あすか、忠司の目をみる。
◯(回想)・あすかの家・リビング
十一年前。祭壇に亡くなったあすかの母親の写真。
喪服を着たあすか(5)マスター(29)が祭壇の前で正座をし手を合わせている。
マスター「あすかちゃん……ママの分まで一緒に長生きしようね」
あすかの頭を撫でる。あすか、頷く。
◯(回想)・公園・ブランコ
六年前。あすか(11)が乗るブランコを押すマスター(34)。
あすか「パパ、もっと強く」
マスター「よーし、行くぞー」
◯回想・小学校・正門
四年前。あすか(12)、マスター(36)、卒業式のフォーマルな服装。
卒業式と書かれた看板前で写真を撮る。
眼鏡はなく無表情のあすかの横で涙を流すマスター。
マスター「……大きくなったね」
あすか「お父さん」
マスター「ん?」
あすか「泣かないで、恥ずかしいから」
◯回想・あすかの家・リビング
1年前。あすか(15)がパジャマ姿で目を擦りながらリビングにくる。
マスター(39)がキッチンにいる姿。マスター、お弁当を作っている。
マスター「よーし、完璧!」
あすか「……ありがとお父さん」
あすか微笑みながら、マスターに聞こえない声で呟き部屋を出る。
◯(戻って)町・公園・ベンチ同
忠司「付き合いは短いけど、俺だって信じてる。マスターのこと」
あすかに手を貸し、ベンチに座らせる。
あすか「……うん。私も信じてる。お父さんのこと」
あすか、涙を拭い忠司をみる。
忠司「まあちょっと変わった人だけど」
亮「ちょっとじゃねーだろ」
あすか「あなたの方が変わってるわよ」
亮「えー」
笑い合う三人。
◯同・あすかの家・玄関(夜)
あすか家に入るとマスターの鼻歌が聞こえる。あすかリビングに入る。
キッチンで料理をしているマスター。
マスター「おかえりー。遅かったね」
あすか「うん。ちょっと……友達と」
マスター「へー友達と……友達!?」
驚き振り返ってあすかを見る。
あすか「何?」
あすか、マスターを睨む。
マスター「いや。そうか友達か友達ね」
再び背を向けて料理を再開する。
あすか「ねえ」
マスター「ん?」
背を向けたまま返事をする。
あすか「私に隠してることない?」
マスター、手を止め、振り返る。
マスター「……あすかちゃん。実は」
あすか、少し不安げな表情。
マスター「明日のお弁当、今日の残り物になっちゃうかも」
見つめ合い沈黙が続く。
あすか「……そう。……別にいいけど」
マスター「ほんと? よかったー」
あすか振り返って微笑みリビングを出ていく。マスター、少し暗い表情。
◯同・高校・正門
制服の忠司が門の外に立っている。
そこへ後ろから走ってくる亮。
亮「よ! 待たせたな」
忠司「おせえよ」
亮「悪い。で何か思い出したって?」
忠司「いや、気になることがあって」
歩き始めたところで忠司の携帯が鳴る。画面にあすかからのメッセージ通知。
忠司「ん。え? おいこれ」
亮に画面を見せる。「助けて」の文字と喫茶店の前に止まるパトカーの写真。
亮「これって」
顔を見合わせ、慌てて走り出す二人。
◯同・喫茶レトロ・外観
店の外に止まるパトカー。
◯同・同・店内
店内にはマスターと黒いスーツを着た警察二人。佳奈、あすか。
警察1「先日、行方不明者に関する情報提供がありまして」
マスター「行方不明……」
警察2「ご存知ないです? 六年前の小学生失踪事件」
あすか、驚いて手で口を塞ぐ。
警察1「行方不明者によく似た人物がここにいると通報がありまして」
警察1写真を見せる。そこには佳奈が真希に送った男の横顔の写真。
佳奈「え? これって私が真希に送った……」
警察2「六年前なんで、人違いと思いますが、念の為捜査にご協力いただけます?」
マスター「……ええ、それはもちろん」
マスター写真を確認しながら返事をする。
様子を奥の扉からみていたパンダの店員、扉をから飛び出し、全員が振り返る。
警察1「ん? パンダ?」
パンダの店員、走り出し警察官の前を
通り過ぎて出口に向かう。
マスター「おい! どうした! ……まさかあいつ」
◯同・同・外観
到着した忠司、亮、入り口前で扉が開きパンダの店員とぶつかりそうになる。
忠司「パンダ?」
パンダの店員、二人の間を走り抜ける。
亮「どうしたんだあいつ?」
マスター、店から飛び出てくる。
マスター「おお、ちょうど良かった! お前らあいつ頼む」
亮「え? どういうこと?」
警察も外に出てくる。
警察2「すいません。今の方は?」
マスター「いいから早く! いけ!」
忠司「分かった。いくぞ」
亮「お、おお!」
忠司、亮、走り出す。それを追って店から出てきたあすかも走り出す。
◯同・国道
パンダの店員被り物をとって走りながら捨てる。追いかける3人。
◯同・同・横断歩道
三人視点で遠くの横断歩道に辿り着くパンダの店員。
三人を見て信号のボタンを連打。諦めて歩道橋を登る。
歩道橋まで追いつく三人。信号が青に。
忠司「二人はそっち!」
亮「オッケー」
亮、あすか、横断歩道を渡る。忠司、歩道橋を昇る。
パンダ店員、歩道橋の反対側にたどり着くと下に亮とあすかが見え
引き返すが反対側に忠司。
忠司「はあはあ、もう諦めろ」
パンダの店員、歩道橋から飛び降りようとする。忠司、慌てて止めに入る。
亮「おいおいおい!」
亮、登ってきて忠司と一緒に引き止めて歩道橋へ引きづり落とし、倒れ込む忠司、亮、パンダ店員。
あすか「はあはあ、大丈夫!?」
追いついて倒れ込む三人に駆け寄る。
亮「はあはあ、どういう状況? なんでこいつ追いかけてんの?」
あすか「突然警察が来て……あいつがいるんじゃないかって」
忠司、立ち上がってうつ伏せに倒れて顔が見えないパンダ店員の
首筋の火傷のようなアザを見る。
忠司「やっぱりお前か。……黒田煌太」
驚いた表情のあすか、亮。
立ち上がり顔を見せるパンダの店員改め黒田煌太(17)
煌太「……忠司」
◯同・公園・噴水前
あすか「あなた生きてたの……」
煌太「……忠司、なんで分かった?」
煌太、忠司に問いかける。
忠司「その首のあざ」
× × ×
フラッシュ。亮がパンダの店員の被り物を後ろから取ろうとして首筋のあざが見える
× × ×
忠司「記憶のお前にも同じあざがあった」
× × ×
フラッシュ。町外れの空き家で血を流した煌太の首筋に火傷のようなあざ。
× × ×
忠司「そしてもう一つ。マスターの携帯に昔のお前に似た写真があった」
× × ×
フラッシュ。マスターがスワイプする携帯に煌太の写真。
× × ×
煌太「写真?」
忠司「ああ。あれは明らかにお前が消えた後撮られたもの。だから生きている可能性があると思った」
煌太「あの人……俺の写真なんか携帯に」
あすか「ちょっと待って。何でお父さんがあなたを? いつから?」
煌太「お前からしたら意味わかんねえよな。あの人どうかしてる。自分の娘をいじめてた俺なんかを助けたんだから」
あすか「助けた? あなたを?」
煌太「ああ、俺……父親に虐待されてたんだ」
袖を捲ると沢山の火傷のあと。
亮「ひでえ……なんだこれ」
煌太「タバコの跡だよ。
袖をしまう。
煌太「父親と二人だった俺にとって虐待は日常。いつ死のうか。そればっか考えてた」
◯回想・同・同(夕)
六年前。公園の噴水前一人ボールを持ち俯き佇む煌太(11)。その視線の先に、あすか(11)、マスター(36)が楽しそうに手を繋いで帰る姿。
煌太(N)「羨ましかった。優しい親がいる普通の生活が。なんで自分だけ。そう思ったら……周りの奴らに腹が立って、平気で人を傷つける奴になってた」
◯(戻って)・同・同・同
あすか、俯く。
煌太「許してくれなんて思ってない。俺がやったことはあいつと同じただの弱いものいじめ……そう気づかせてくれたのは忠司、お前だ」
忠司、少し驚いた表情。
煌太「ゲームを奪い合った次の日、クラスの奴らお前を泥棒扱いしたろ?」
忠司「ああ……」
煌太「正直怖かった。本当のことがバレたらって。でもお前は何も言わない。なんで言わねぇんだって思ったけど、こいつを守るためだったんだよな?」
あすかを指差す。
忠司「……」
煌太「お前に嫉妬したよ。なんで俺はこっち側なんだって、なんで助ける側じゃないんだって。……そう思ったらもう全部終わりにしたくなって、お前を空き家に呼び出した」
◯回想・同・空き家・二階
六年前。煌太(11)、ソファの前でバックを背負い立っている。
煌太(N)「あの日、俺はゲームをお前に預けてから自殺するつもりだった」
下の階から「ガチャ」という音とともにマスター(36)の鼻歌が聞こえる。煌太、慌てて窓から脱出しようとする。
マスター「あのオーナーもいい加減だよな、鍵だけ渡して勝手に見てこいって」
マスター、階段を昇りながらつぶやく。
◯同・同・外観
忠司(11)空き家へ到着し二階窓から梯子で降りようとする煌太が見える。
忠司「ん、煌太?」
煌太、足を滑らせて地面へ落ちる。
忠司「煌太!?」
バックを担いだまま倒れた煌太に駆け寄る忠司。体を揺すり声をかける。
忠司「煌太! おい煌太! しっかりしろ!」
自分の手を見ると血がついている。
忠司「そうだ救急車!」
携帯を探すが見つからない。
忠司「携帯はこの前……。くそ!」
煌太をおいて走り出す忠司。
煌太「……た……だし?」
煌太、意識を取り戻す。
◯同・同・2階
外から大きな物音が聞こえる。
マスター「なんだ!?」
窓から外を見渡すと倒れた梯子と煌太の姿。すぐに一階へと走る。
◯同・同・外観
マスター、入り口から飛び出て辺りを見渡し倒れた煌太を見つけ駆け寄る。
マスター「おい! 大丈夫か?」
煌太「うう……」
マスター「上から落ちたのか?」
マスター、煌太が背負ったバックを外す。煌太、マスターの顔をみる。
煌太「……上田あすかの父ちゃん?」
マスター「ん? 君、あすかちゃんの友達?」
煌太「いや、俺は……。うっ」
煌太、起きあがろうとして身体の痛みを感じ固まる。
マスター「おいおい無理するな」
マスタ―、煌太の頭から出血を確認。
マスター「少し血が出てるけど大した傷じゃないから安心しろ。他に怪我ないか?」
マスター、煌太の身体を確認する。
マスター「ん?」
腕の袖から火傷の跡がみえ、袖を全部捲るとあざや火傷だらけの腕が見える。
マスター「これは……。とりあえず、病院へ」
煌太「ほっといて……このまま死にたいんだ」
マスター「何言ってんだお前」
煌太「俺……上田あすかをいじめてた」
マスター「え? 君、もしかして……」
煌太「……もうどうでもいい。最期にあいつらに謝ることもできない。もうここで死なせて」
煌太の視線の先にバックからはみ出たゲーム機。
マスター、しばらくの沈黙の後、煌太にデコピンをする。
煌太「いてっ!」
マスター「なーに言ってんだ。これくらいで人は死なねえよ」
煌太「でも、あいつのとこに帰るくらいなら……そうだ次はもっと高いところから」
マスター「馬鹿野郎! この世にはな、生きたくても生きられない奴がいるんだよ! ……俺が何とかしてやる」
マスター、煌太を抱えて歩き出す。
煌太「無理だよ、役所の人全然使えない。あいつ、反省したふりだけで」
マスター「大丈夫」
煌太「いじめてたんだぜ……」
マスター「だから?」
煌太「……」
マスター「俺がお前に平凡で退屈な人生ってやつを教えてやる」
◯(戻って)・同・公園・噴水前
あすか「やっぱりお父さんあそこにいたんだ」
忠司「そうだ、あの日俺は2階から落ちてきたお前を見て」
◯(回想)同・国道
六年前。忠司(11)、歩道を走る。
忠司「早く誰か呼んでこないと」
× × ×
フラッシュ。小学校の教室でクラスメイト数名から「泥棒」と連呼される。
× × ×
忠司、立ち止まり手についた血を見る。
忠司「もし、誰も信じてくれなかったら?」
その場にしゃがみ込み過呼吸になる。
クラスメイトたちの「泥棒」「人殺し」という幻聴が聞こえる。
忠司「違う、違う、俺じゃない、俺じゃない……」
忠司、意識を失い頭から倒れる。
◯(戻って)同・公園・噴水前
忠司「目が覚めた時には何も思えてなかった」
あすか「あなたはその後?」
煌太に問いかける。
煌太「木がクッションになったのか本当にたいした怪我じゃなかった。それからあの人は、知り合いに俺を一旦預けて、喫茶店ができてから今日までずっと俺をあそこで匿ってくれてた」
亮「それで行方不明に。……でもそれって」
煌太「ああ、俺の意思でも未成年を誘拐した犯人ってことになっちまう」
あすか「そんな! お父さんは間違ったことしてない」
煌太「その通りだよ。あの人に保護されてなきゃ俺はとっくに」
忠司「お前の父親は?」
煌太「死んだ。借金に首が回らなくなってその後……いなくなって清々してる」
亮「なあ、このままだとマスターやばいんじゃない?」
忠司「何とかしないと」
煌太をおいて公園を出ようとする三人。
煌太「待てよ」
立ち止まる三人。
煌太「黒田煌太は六年前に死んた。それでいいだろ?」
あすか「どういうこと?」
忠司「お前……死ぬつもりじゃないよな?」
亮、あすか、驚いて煌太の顔を見る。
煌太「俺はこの六年充分生きた。平凡だったけど、それまでのクソみたいな人生の何倍も何十倍も幸せな平凡だった。そんな平凡な幸せを教えてくれたあの人に迷惑はかけられねえよ」
あすか「勝手なこと言わないで! ……あなたが私にしたことは許せない。でもそんなあなたまで助けようとしたお父さんを誇りに思う。お父さんが救った命、簡単に捨てるなんて私が許さない!」
煌太「じゃあどうしろってんだよ! ……頼むから死なせてくれ。お前をいじめてたせめてもの償いを」
そこへマスターがやってきて煌太に近づく。
マスター「お前今なんて言った?」
あすか「お父さん!?」
マスター「まだ分かってねえのか! 言ったろ? 明日を生きたくったって生きられないやつがいるんだよ! 俺の奥さんだってな、生きたいって毎日俺に言いながら死んでったよ。死ぬなんて簡単に言うんじゃねえ!」
煌太、その場に崩れ落ちる。
煌太「……でも俺どうしたらいいか分からなくて」
マスター「何もしなくていい。子供は生きるのが仕事だ」
亮「でもどうする? このままだとマスター捕まっちまうぜ?」
忠司「こいつには悪いけど、一旦どっかに隠れてもらうしか」
あすか「どっかってどこ?」
マスター「なんで隠れる必要があるんだ?」
亮「話聞いてました? このままじゃ」
マスター「心配すんな。警察には正直に話す」
忠司「でもそれじゃあ」
マスター「いいんだ。俺は自分が正しいと思うことをやっただけ、何も後悔してない。それにまだお前に本当の平凡な人生を教えられてないしな」
煌太「俺はもう充分」
マスター「馬鹿かお前。名前も顔も隠してこそこそ生きるのが普通な人生なわけないだろ。煌太。胸はって堂々と生きろ」
煌太、涙が溢れる。
あすか、マスターの胸に顔を埋める。
マスター「ごめんな、一緒にいてあげられなくて」
マスター、あすかの頭を撫でる。あすか、首を横に振る。
マスター「すぐ戻ってくるからその間留守番よろしくな。……おい! そこの二人」
マスター、忠司と亮の方を指さす。
マスター「この子のこと頼んだぞ」
忠司「うん。分かった」
マスター、あすかを離し出口へ向かい途中で振り返る。
マスター「絶対手ぇ出すんじゃねえぞ!」
再び出口に向かい待っていた警察官二人と合流。その姿を見つめる四人。
◯同・国道・横断歩道
T『3ヶ月後』
制服を着た煌太、信号を渡る杖をついたお婆さんの荷物を持って一緒に渡る。
お婆さん「ありがとう、最近は優しい子が多いのね」
煌太「ほらよ、じゃあ気をつけてな」
煌太、荷物を返し見送る。
◯同・公園・ベンチ
亮、制服でベンチに座って携帯を見る。画面にはSNSアプリ。『喫茶店マスターの真実』という投稿が見える。
亮「どれどれ……おお! 3万いいね! この調子でもっと広まってくれよ」
◯同・あすかの家・リビング
あすか、制服で祭壇に手を合わせる。
あすか「ママ、お父さんは世界一カッコいいお父さんだよ」
立ち上がり部屋を出る。
◯同・あすかの家・あすかの部屋
机にゲーム機と忠司の写真、カメラ。あすかが入ってくる。ゲーム機を『彼との思い出』と書かれた引き出しにしまい、写真を部屋の壁に貼り付ける。
あすか「やっぱり私の世界一はこっち」
部屋全体が映し出され、壁一面に忠司の写真が飾られている。
◯同・忠司の家・玄関
靴を履く制服の忠司の横に新聞が置かれている。誌面には小さく「未成年誘拐事件不起訴か?」の見出し。
◯同・同・外観
忠司、ドアから出てくる。
泰子「忠司―、忘れ物」
泰子、出てきて体操の袋を渡す。
泰子「いってらっしゃい」
忠司、走り出してすぐ止まり振り返る。
泰子「ん?」
忠司「いってきます。……母さん」
忠司、小さく敬礼をし走り去る。
× × ×
フラッシュ。六年前、忠司(11)が敬礼して家を出ていく姿が重なる
× × ×
泰子「忠司?」
涙を流し笑顔で見送る。
◯同・公園・入口
忠司、亮と合流して走り去っていく。
(終)


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